Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

中国商標法第4次改正

使用を目的としない悪意の商標出願

中国商標法が改正されるようです。NGBのサイトに紹介があります。

【商標NEWS】 中国商標法第4次改正可決|知財情報|日本技術貿易株式会社


使用を目的としない悪意の商標登録出願への対応

  • 使用の意図を有さない商標ブローカーによる悪意の先駆け出願、大量出願が横行
  • 「使用を目的としない悪意の商標登録出願」を拒絶理由、絶対的異議理由、絶対的無効理由として明文化
  • 悪意による商標登録行為を行政罰の対象とし、悪意による権利行使を裁判所による司法罰の対象とすることが規定された
  • 依頼人の上記事情を知り又は知り得た代理機構はその依頼を受けてはならない
  • 違反した代理機構及びその責任者、管理者も行政罰の対象


損害賠償額の引き上げ

  • 懲罰的損害賠償の倍率は「1~3倍」から「1~5倍」に引き上げ
  • 裁量に基づく賠償額も「300万元以下」から「500万元以下」に引き上げ

侵害品等の廃棄命令

  • 侵害品について裁判所は権利者の請求により原則廃棄を命じなければならない
  • 主に侵害品を製造するための材料、道具についても原則廃棄を命じ且つ補償を行わない
  • 侵害品については、登録商標を削除したことのみをもって商業的に流通させてはならない

 

条文は、下記のCCPITのサイトが分かりやすいようです。

https://www.ccpit-patent.com.cn/ja/node/6200

 

コメント

「使用を目的としない悪意のある商標登録出願は拒絶されるものとする。」

悪意の商標登録出願を、拒絶、異議、無効の対象にする点が、一番のポイントです。

この4条は、日本でいう3条1項柱書のような条文です。ここに、悪意の出願の排除規定があります。

 

しかし、この悪意の出願の認定は簡単ではありません。異議申立をする場合、ある出願人が近い商標を出していることが分かり、中国商標局のサイトでその出願人名で、検索すると、近い商標を沢山出願していることを発見したりします。

この出願人は、怪しいということが分かります、異議申立の中で、この出願人は悪意があると主張したりしますが、異議ではなく、通常の審査で、審査官がそこまでやってくれるのでしょうか?

 

また、「使用を目的としない」という文言は、どう考えればよいのでしょうか?

NGBの解説にあるように、今回、排除しようとしている、悪意の出願をする出願人とは、自分は使うのではないけれども、高値で売りたいという出願人のようです。使用を目的としないとは、その趣旨を言っているのだと思います。

 

しかし、悪意の出願人には、もう一つあります。実際に使用する悪意の出願人です。有名商標に似せた商標で、自ら実施しようという出願人の場合は、使用を目的としているのですから、文理上、「使用を目的としない」に該当しません。

 

先日、日本商標協会の実務検討部会で、アシックスの齊藤部長の話を聞いたのですが、asicsとは、一般的には類似ではないけれども、使用実態を含めてアシックスの商標に似せている商標について、中国のAICが大々的にレイドをやってくれたという話がありました。

《知財》アシックスの偽物3万点を摘発、北京工商局 - NNA ASIA・中国・その他製造

 

紹介されていたケースは、日本の類似は遥かに超え、世界の商標の専門家に聞いても商標だけの単純比較では、類似という人はいないような代物です。

 

しかし、中国の当局は、商標権侵害として、止めています。

相手方の使用実態(本物に似せる意図がある、発音を無理やりアシックスと言っている、消費者が偽物をアシックスの本物と誤解しているなど)を考えると、全体としては、出所混同が生じており、商標権侵害としても良いという判断です。

混同を生じる範囲が類似という商標法本来の姿からすれば、まぎれもない類似です。

 

中国では、審査の類似と、侵害の類似は、違います。非常に素直な法解釈です。

使用を目的とする悪意の商標の場合は、この侵害時の「類似」の解釈で対処することができるとすれば、今回の法改正に、「使用を目的としない悪意の商標登録出願」と、すこし限定的な文言をいれても許されるような気がします。

 

まったくの推測ですが、「使用を目的としない」のチェックは、2つのチェック方法があります。

1)使用宣誓書を導入する

今、世界の商標法では、先使用主義ではない、先願主義の国で、使用宣誓を求めるところが増えています。メキシコもそうですし、アルゼンチンもそうです。

2)  数でチェックする

中国商標局は、小さな会社や実体の会社でありながら、大量出願をするような会社を、この規定を根拠に、自動的に拒絶を出し、反論がないときは、拒絶にしてしまうのかもしれません。

 

日本は、3条1項柱書を緩める方向ですが、世界の流れに逆行しているような気がします。1)が法制度としては、筋がよく、これを基本に検討すべきだと思いますが、2)の方法はベストライセンスに適用できます。

 

今回の法改正は、米中関係なども関連している感じですし、また、運用を実際どうするのか不明ですが、中国の法律家はさすがだなと思います。

 

中国では、出願手数料を半額にしたあたりから出願件数が激増したということもあり、出願費用を上げようという考えもあったようですが、それは今回の改正には入っていません。