藤本昇先生のお話し
雑誌「発明」の2019年6月号の藤本昇弁理士の「意匠の活用」を読みました。
藤本先生は、
- 日本の意匠出願は年間3万件
- 藤本先生の事務所では、年間500~600件で、特許事務所では第2位
- 知財ミックスは、昔からあった
- 中小企業では、特許がメインではなく、製品の権利保護がメインであり、特許も意匠もセットで検討していた
- 技術が成熟して、特許を取ることが難しくなった代替案としての意匠
- 侵害訴訟の経験は、150件
- 意匠は権利期間が長い
- 関連意匠が、本意匠の出願日から10年に延長へ
- 侵害訴訟の経験が多いと、自ずと細かい点まで詰めておきたくなる
- 意匠の調査は3段階
- リスク回避のため、①初期の段階での予備調査(侵害性マップ)
- ②試作品等が出来た段階での本調査
- ③創造のためには、製品やジャンルの5年間のデザイン変遷を、デザインマップ化
- 出願時に、登録になるかどうかの調査は不要。意匠公報で引例になるパーセントは15%しかない
- 各種刊行物、カタログ、特許公報、実用新案公報のチェックは非現実的
- 意匠の類否判断は、特許、商標よりも難しい
- 意匠は、警告書等の紛争は多いが、侵害訴訟件数は特許に比べて少ない
- 海外では、アップルとサムソンの例。特許には誤訳問題、意匠は図面で分かりやすく権利行使しやすい
- 特許の有効・無効を判断できる制度(特104条の3)は、進歩性の判断は大変
- 懲罰規定も必要
- 「これでわかる意匠の戦略実務」(発明推進協会)
というような内容です。
コメント
藤本先生は、学生時代にお世話になっていたので、これは読まねばと思い読みました。
弁理士会の初任者研修で、先生から、駅や道路などにある黄色いブロックの意匠戦略を聞いたことを思い出します。
ブロックを、各種の形態で抑えれば、事業を独占できるなと思いました。知財としては、夢のある話だなと思ったことを想い出します。
昔から藤本先生は、惜しげもなく、ノウハウを開示しているように思うのですが、それでも意匠の利用率が、どんどん下がってきているのは、どういうことなのかと思います。
家電などが低調になってしまったためが一番ですが、企業の知財担当者としては、意匠で権利行使するイメージがわかないためではないかと思います。ここは、藤本先生のように意匠での権利行使に精通している弁理士に相談するのが一番良いように思います。
さて、この記事で、一番関心をもったのは、デザインマップや、3種類の意匠調査の話です。
携帯電話のメーカーで意匠調査を1年ぐらいやっていたことがありますが、その時やっていたのは、出願時の調査です。先生が、出願時にやっても仕方ないと言っているものです。
しかし、出願するのは、製品の発売前ですので、試作品等ができるときの調査(本調査)と、出願時の調査の間には、時間的には、数か月のズレしかありません。それほど、タイムラグがないとも言えます。
リスク回避目的の調査ですが、初期の段階の予備的調査で、大きな傾向がわかります。デザイン開発の方向性を、大きく決めることができます。これは理解できます。
出願時は、発売の少し前であり、最終製品の調査といえます。この時期は、すでにデザインを止める時期は過ぎています。そうなると、出願時の調査は、登録率を上げるための調査でしなく、そんなものは不要というであれば理解できます。
その少し前、試作品の段階でする調査は、先生は、本調査と呼んでいます。この段階では、製品を止めることができる最終段階だと思います。
商標調査に近い、デザイン採用のGO、STOPを決める調査になります。
商標採用時に、商標調査をしない人はいませんが、製品デザイン採用時に、意匠調査をしない会社がほとんどです。
この違いは、意匠調査は、①意匠の類否判断が難しい、②調査に費用がかかる、③調査に時間がかかる、④業界のリーディングカンパニーであれば、意匠は最先端であることが多い、などがありますが、おそらくは、④の自動で最先端であるということと、①意匠の類否判断が難しからです。
そう考えると、業界のリーディングカンパニー以外が、新規事業として商品を出すときには、意匠調査はすべきとなります。
意匠の調査が難しいのは、商品毎に、類似の幅が違うという点で、その業界にドップリ浸かっている人でないと簡単には判断できない点です。
この意味で、意匠の仕事は企業の担当者向けで、特許事務所向けではありません。
特許事務所で、企業並みの意匠調査をしようとすると、藤本先生ではないですが、調査会社をつくる程度のことをする必要がありそうです。