Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

北大サマーセミナー(2日目、その1)

平成30年著作権法改正、海賊版対策の功罪

2019年8月16日は、サマーセミナーの2日目です。

この日は、慶応大学の奥邨弘司教授の著作権法の話と、韓国のKIM & CHANGの韓(ハン)弁護士の韓国法の最近の話題です(韓先生の話は、次回に)。

 

奥邨先生は、以前勤務していた会社の法務部におられたことがあり、今回のセミナー参加を決めたのは、奥邨さんの話を聞いてみたかったというのが一つでした。

日頃新聞記事レベルでしか著作権と接点のない身としては、正直難しかったというのが感想です(特に平成30年法改正)。ただ、理解の糸口は得られたような気がします。

 

●平成21年、24年にも著作権法改正があったが、日本版フェアユースとなる予定の条文である30条の4が、「技術開発又は実用化のための試験の用に供するための利用」に限定されてしまった。

これは、著作権侵害刑事罰の対象になるため、フェアユースのような権利制限の一般規定は、入れにくいという判断があったようです。

 

それが、今回、30条の4の改正で、

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
① 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
② 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47 条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合
③ 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

となったとのことです。

後は、重要な条文は、47条の4、47条の5です。

 

 

今回の法改正では、3層構造の説明がされており、これが功を奏したようです。

第1層:著作物の本来的利⽤には該当せず、権利者の利益を通常害さないと評価できる⾏為類型

第2層:著作物の本来的利⽤には該当せず、権利者に及び得る不利益が軽微な⾏為類型

第3層:公益的政策実現のために著作物の利⽤の促進が期待される⾏為類型

というものです。重要な改正点は、第1層にあり、権利制限がしやすい部分であることになります。

 

著作権法が、文化的な著作物の保護法から、情報通信分野の著作物が増えてきてイノベーションに対応できなくなっている点を修正でき、今回の法改正で、アメリカのフェアユースで認めれている範囲が、実質的にカバーできたという説明がありました。

 

ただ、従来型の著作物のフェアユースではない点と、そもそも、その従来型のフェアユース判例は、アメリカでも多くは無く、明確ではない面があるので、本当にそう言ってしまって良いのかという反論ができるようです。

 

海賊版対策の方は、漫画村等の海賊版サイト対策の話です。まだ、法改正が出来ておらず、次の通常国会ということですが、リーチサイト・リンク、ブロッキング、ダウンロード違法化の3点の説明がありました。

 

●リーチサイトは、あまり使用例がない用語のようですが、英語で書くと、Reachではなく、Leech(吸血)の方だというのが面白い点でした。

 

リンクは自由ということで、ずっと来ていますが、リーチサイトの問題でリンクするとも著作権侵害になるという判例が、欧米で出てきているのは、驚きました。

これが進むと、萎縮効果が生まれ、ネットの利用自体が、低調になり、社会や文化の発展を阻害する可能性もありそうです。

 

●悪質サーバーが、海外にあるようですので、国内でやりやすい方法として、日本のプロバイダーに、ブロッキングを義務付けるという話ですが、ブロッキングを実際できるのか?という技術的な話があるようですし、元を絶つという意味では、アメリカのプロバイダーを止める方が重要とのことです。

面白い対策はアメリカのドメインネームの没収(民事没収)という話がありました。

ブロッキングは、通信の秘密との関係があり、憲法上の議論もあるようです。

 

●ダウンロードの違法化は、以前、ナップスターのようなファイル交換ソフトでの議論があり、平成21に私的録音保証金制度との関係で議論はあったようですが、平成24年に国会審議で、音楽等の私的違法ダウンロードの処罰規定が入ったようです。

今回、それを拡大するという案だったのですが、最終は自民党内での反対で、ストップしたようです(非常に珍しいことのようです)。

先生は、対象を、今、問題になっている、「書籍及び雑誌」に絞って、やり直すことが重要という話でした。

 

話として面白かったのは、コピーライト・トロールの話です。架空請求のようなものに近いのですが、個人に対して弁護士事務所から警告状がきて、例えば20万円を請求するというのが流行っており、アメリカ、ドイツで例があるようです。

ダウンロードの違法化は、この傾向を助長する面があるかもというのは、面白い視点でした。

 

緻密な論理、技術的な理解、外国の情報、というのが、奥邨先生の話を聞いた印象でした。