平成31年意匠法改正の評価と課題
2019年8月17日、北大サマーセミナーの3日目は、青木先生の話でした。今回、参加した一つの目的は、意匠法の改正の話や、ファッションローの話を聞きたいなと思っていた点です。まず、意匠法改正です。
2018年5月に、経産省と特許庁が「デザイン経営宣言」を出しています。そして、その後、意匠制度小委員会ができ、田村先生が委員長になられたようです(少し、説明をしていただきました)。
「デザイン経営宣言」にも、今回の意匠法改正の件は言及されていましたが、物品性などは基本は残っており、完全にその通りになっている訳ではないようです。
大きなポイントとしては、
- 意匠出願の減少に歯止めをかけたい
- ハーグ経由出願が「物品の名称」違反などになっている。この拒絶を減らしたい
- 画面デザインを保護(ソニーのAny Sufaceの事例、NAVITIMEの走行ライトの事例)
- 空間デザインを保護(建築物、店舗外観)
- 関連意匠制度を使いやすく
- 意匠権の存続期間を延長
- 複数意匠一括出願を可能に
- 物品の区分を見直す(2年以内に)
- 創作非容易性の水準を引き上げる
- 組物の部分意匠制度の導入
- 間接侵害の拡充
- 手続救済規定の拡充
という内容です。
欧州の意匠のように、物品性を要求しないようにするかというと、そうでも無いようで、画像と建築物について、物品性を拡大したいようです。
もともとの法改正の目的は、
- デジタル技術を活用したデザインの保護
- ブランド構築
となっており、画像デザインは1.に対応して、関連意匠は2.に対応しています。関連意匠については、マツダの車のデザインのプレゼンがあったようです。
新しい条文 (物品性)
2条1項
この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。
画面デザインは、既にAppleの画面デザインなどは、「~機能付き電子計算機」などというような物品の記載で、多数登録されているそうです。
今回の画像デザインは、機器の操作の用に供されるもの、機器が機能を発揮した結果として表示されるものに限られるので、全ての画像ではなく、機器の縛りがあります。
また、建築物は、従来は、組み立て家屋は物品であり、それ以外の建築物は不動産であって物品ではないという点を整理していたものです。
プレハブ住宅メーカーは歓迎、今のところ建築業界は特にコメントがないようです。建築物について、意匠権クリアランスが必要になるのですが、大手建設会社は特許部があるので可能でしょうが、不動産会社は法務部しかなく、不動産会社が意匠を扱えるのか?という隠れた論点はあるようです。
空間デザインの内装については、コメダの事件が前提ですが、AUの事例やイトーキのプレゼンがあったようです。
関連意匠については、ブランド構築との関係で説明されており、マツダのプレゼンがあったようです。
権利期間の延長は、中小企業の支持があるそうです。中小企業は一つのヒット商品を大事にするので、権利期間が長い方を好むというのは、面白いなと思いました。
しかし、出願日から、25年の存続期間というのは、だいぶ長いなという気がします。
TIPSですが、現時点、意匠は出願が少ないので、2ヶ月で審査が完了し、製品発売前に公表されるので、慌てて秘密にする話があるそうです。
青木先生のまとめで、全体に、今回の意匠法改正は政策的色彩が強いものの、バックには、ベンチャー育成、意匠出願件数の復活(昔の半分)、著作権への配慮、関連意匠に見られる長期的な視野があるようです。
実務的には、今回の関連意匠は複雑なので、これを活用するには、意匠マップをつくったり、本気で意匠をやらないと対応できそうにありません。
昔の類似意匠制度に近い感じですが、本意匠の出願日から、10年の制限があります。(存続期間は、基礎意匠の出願日から25年。ちょっと複雑です。)
著作権と意匠権の差の説明で、物品性があるので、意匠では著作物ほどの創作性がなくても良いのではないかという考え方があるのを知りました。
最近は技術的な意匠も多く、法的な整理としては、そうなのかもしれません。この考え方は、保護すべきという著作物は、創作性が高いこととが前提にあります。
しかし、日本のデザイン大学を出た優秀な人達が、プロダクトデザインをするために、メーカーに来ていることが多く、彼らとしては、物品や技術水準という制約の中で最高水準のデザインをしているという自負があるので、インダストリアルデザイナーが怒ってしまわないような説明の仕方、配慮が必要だろうなという気がしました。