パテント2019年9月号
パテントの9月号に、JETROに勤務している、渡辺浩司弁理士、阿部公威弁理士の「日本企業の模倣品被害の実態と対策」という論説が掲載されています。
JETROの特許庁支援事業の中小企業等海外侵害対策支援事業の、主に模倣品対策支援事業から得た知見から、海外での模倣品被害の実態と対策をまとめたとあります。
- 模倣品は、売上減の他、品質誤認が生じるときは、ブランド毀損リスクあり
- 医療機械、医薬品、自動車部品では、被害企業が製造物責任を求められる可能性もないとはいえない
- 特許庁の「2018年度模倣被害実態調査報告書」では、約7%の企業が模倣品被害を受けている
- 製造国は中国が最も多く、販売は中国の他、ASEAN各国も
- 警察への取締申請は、81.3%が効果あり。民事訴訟は、70.4%に留まる
- 特許権侵害は費用倒れに陥る可能性
- 行政当局や公安当局は、主に商標権に基づくデッドコピーの摘発
- 製造時は商標を付さず販売時に商標を付したり、見た目はそっくりだが商標のない件には、意匠権
- ECサイトは、第一次的責任は出店者だが、サイト運営者が知財侵害の制裁措置を設けている。この仕組みの活用が重要。特に国境を超える場合に有効
- 民事訴訟では、証拠が重要。Webページのプリントアウトや、模倣品の販売状況を、事実実験公正証書で、記録することが重要
- 行政摘発では、意匠権の活用
- 税関登録は、商標権が著作権がメインだが、日本や中国では特許や意匠も可能
- 警告状の送付は、積極的に権利行使する姿勢を見せるため重要
- 弁理士の積極的な関与を
とあります。
コメント
特許庁やJETROの報告書、一般の書籍でも模倣品のことを解説しているものは多いと思います。
本論説は、模倣品対策について、網羅的に、簡潔にまとめられているので、参考になると思います。模倣品対策のことを網羅的に見るのに、役立つのではないかと思います。
特に意匠権の活用を勧めているようです。
良いなと思ったのは、冒頭の模倣品対策を、売上減少防止とブランド毀損の両面から見ている点です。
各社を見ていると、模倣品対策に積極的な企業ほど、ブランド力も高いように思います。ブランド価値向上というと、広報宣伝という感じがしますが、強いブランドは、法務面も強い(少なくとも、強い意思を持っている)ことが多いのではないでしょうか。
一点、「事実実験公正証書」というのは、良く知りませんでした。日本公証人連合会のWebサイトに説明がありました。
事実実験公正証書とは、
- 公証人は五感の作用により直接体験(事実実験)した事実に基づいて公正証書を作成することができ、これを「事実実験公正証書」と呼ぶ
- 「事実実験公正証書」は、証拠を保全する機能を有し、権利に関係のある多種多様な事実を対象とします。
- 特許権の侵害されている状況を記録した事実実験公正証書を作成する場合など
- 事実実験公正証書は、その原本が公証役場に保存される
- 公務員である公証人によって作成された公文書として、裁判上真正に作成された文書と推定され、高度の証明力を有する
とあります。
中国の不使用取消の請求を受けたようなケースでは、こちらの使用証拠に日本の公証人の公証が求められます。
通常は、ルーチンで公証人の公証が必要ということだけ覚えて、やっていますが、考えてみると、中国現地でのカタログやインボイスなどの証拠に、なぜ中国の公証人ではなく、なぜ日本の公証人の公証が必要なのかのか良く理解できていません。
公証人認証の相互認証のような考え方があるのだと思いますが、正確には良く分かりませんでした。
公証などは、形式的なもののような気もしますが、これがないと前に進みませんので、実務的には必要です。