IPランドスケープで、何を分析するか
2019年10月14日の日経の渋谷高弘編集委員の標記の記事を見ました。見出しには「日本の特許戦略、40年進まず」とあります。
- 日本は1970年代に世界最多の出願国に
- 2002年に小泉首相が「知財立国宣言」
- しかし、2010年代に電機メーカーは総崩れ
- 1970年代の「ひたすら特許を出願し保有数を増やす」「クロスライセンス」から40年進化せず
- 韓国、中国、台湾で、製造ノウハウに関わる特許が、模倣、再現
- インテル、アップルなど、欧米はアジア企業を利用
- 経営トップが知財センス
- 日本の役員に知財出身者はいない。M&Aや提携でも知財は考慮されない
- 改革の起爆剤として、IPランドスケープ
- 特定の技術や市場での自社・他社の情勢を見やすくした、ビジネス分析
- 米中対立の今こそ好機。独自の勝ちパターン再定義を
コメント
このテーマ、奥が深そうです。渋谷編集委員が最も言いたいことは、経営者が知財をわかっていないという点に尽きるのだと思います。
IPランドスケープは、流行り言葉ですが、手段の一つでしかありません。WIPOでもIPランドスケープといっていますし、アナクワもIPランドスケープを売り物にしています。一般社会の目を、知財に向けるための、キーワードぐらいに思います。
さて、メーカーであれば、技術者が社長になることは多いのですが、発明者としては知財に関与していたとしても、弁護士・弁理士のような知識はありません。
弁護士・弁理士が社外取締役になったり、知財部出身者が社長や役員になったり、経営の中枢にいないことには、最適な経営判断はできないということは、その通りだと思います。
モノを作って、売る。そのためには、工場が必要で、社員が必要で、自前の営業ルートが必要でとなりますが、インテルやアップルのように、知財中心の経営になると、工場は外部委託で、営業もライトになり、会社の形態がまったく異なってきます。
以前、会社の先輩が、昇格面談でそのようなことを言うと、君な会社の性格を変えるつもりか?と質問されたそうですが、その通りだったようです。
知財ラインセンス契約、物品購買契約、製品販売契約が、シームレスになるので、知財部が知財契約で、法務部が購買や販売契約を見ていることは、ナンセンスです。
メーカーのジェネラルカウンセルは、技術にも明るく、知財実務や、独禁、税務など、あらゆる企業系の法務に精通した、更に、ビジネスセンスのあるスーパーマン(ウーマン)でないと務まりません。
一人の人間で無理なら、法務部長、知財部長、経営企画部長が、チームとなって、対処するしかありません。法務と知財の人材交流など、定期的にすべきです。
この30年ほど、人事の問題が大きかったような気がします。知財についての専門知識は、後付けでも身につくということで、知財部の幹部に技術者が来るのですが、どうも上手く行きません。
技術者系の知財幹部は、もともと頭は良い方が多いですし、ある面は良く知っているのですが、基礎的なことを知っていないことも多く、そこが蟻の一穴になるように思います。
一方、弁護士・弁理士で、ビジネスにも明るい超一流の人材が企業の知財部にいるかというとそうではありません。弁護士・弁理士では、企業の方が、ワークライフバランスで、処遇が良いからという理由で、企業を選んでいる人が多いように思います。
そもそも、日本の弁護士・弁理士に、超一流がいるのか?という話もあり、そう思う会社では、海外の弁護士を採用します。
しかし、その人が、日本の風土に合うかは、疑問です。
そう考えると、海外の一流企業の、弁護士・弁理士を分析して、それに匹敵する弁護士・弁理士を育成することが、重要なテーマではないかと思い至りました。
少子化で若手の少ない時代、優秀な若手を、定型業務しかできない専門家に育ててはいけないように思います。