弁理士会意匠委員会メンバーからの説明
2019年10月31日に弁理士会館(商工会館)で開催された、「意匠法改正の概要とその実務上の留意点」という研修会の講義を受けました。講師は、弁理士会の意匠委員会のメンバーです。
(法律等)
- 2018年5月23日付のデザイン経営宣言の別紙から
「産業競争力とデザインを考える研究会」の報告書を取りまとめました (METI/経済産業省)
- 2019年5月17日 改正意匠法公布→施行は、2020年5月17日までに
「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました (METI/経済産業省)
- 2019年10月23日 審査基準案(完成版ではない)
第17回意匠審査基準ワーキンググループ配布資料 | 経済産業省 特許庁
(改正された点)
- 意匠は新しいものを奨励するという思想から、意匠の有するブランド価値を保護するに変化→関連意匠制度の拡充、存続期間の延長
- デザイン経営宣言で、画像デザインや空間デザインの保護について提言→保護対象の拡充へ(画像、空間)
- 意匠とは、物品の形状等、建築物、画像(ただし、操作画像と表示画像)。コンテンツ画像は、意匠ではなく模様と扱う
- 物品性は問わなくなったが、用途・機能はある。このフレームは変わっていない
- 物品の区分の廃止(意匠に係る部品の欄は残る)。
- 画像の場合、意匠に係る物品の欄に「銀行取引用画像」などでも良い
- 画像は物品の同一・類似ではなく、用途・機能の共通性で類似が決まる
- メール送信機能の画像がある場合、メール送信機能付き冷蔵庫は非類似意匠で、メール送信機能をタブレットで表示する場合は類似する意匠
- 商品選択用画像と会議室選択用画像は、類似する意匠。用途・機能が共通している。画像の類似の粒度はこのぐらい
- 建築は、土地の定着物であり、人工構造物であること
- 土木構造物を含む(橋梁、煙突を含む。世間の定義とは異なるので注意。スキーコース、ゴルフコースは議論あり)
- 建築では、用途を記載(ホテル、病院など。ほとんどの建築物は、人がその内部に入り、一定時間を過ごすものとして用途・機能の共通性あり)
- 内装は、内装全体として統一的な美観が必要(コメダ珈琲の使用実態は色んな要素が入っている)
- 統一的な美観は、高いものが必要か、低くても良いか、学者も対立
- 新関連意匠は、旧類似意匠と現関連意匠の中間のような制度
- 関連意匠を出願できる期間は10年に。自己の意匠で拒絶されないようにした
- その他、創作非容易性基準の見直し、複数意匠一括出願、間接侵害の拡充、組み物の要件緩和、図面の要件緩和、光の意匠の審査基準など
コメント
まず、今回の法改正で、意匠をブランド的視点で見ていることは良いことだと思います。日本の製品・サービスのブランド価値にプラスの影響があります。
このような大改正がデザイン経営宣言から、1年以内に出てきたといのは、どう理解したら良いのかと思います。通常、このぐらいの大改正をするなら、2~3年は、議論をしないといけないイメージです。
少し性急な感じもしますが、意匠課で、積年の課題だったのかもしれません。
以前の会社の上司が、前回の関連意匠を導入したときに、知財協会の意匠委員会の委員長をしていました。関西の会社で意匠委員会の委員長をするのは無理があり、東京に転勤してまで委員長をやっていました。相当、とりまとめは苦労していたように思います。
関連意匠の拡充などは、当時の当初の議論に近いのではないかと思います。
それはさておき、建築は大変です。
コメダ珈琲は内装です。これは想定の範囲だったのですが、建築はまさか意匠に来るとは思っていませんでした。
内装なら、レイアウト変更で対応できますが、建築で意匠権侵害があると、建築物の取り壊しが必要になります。ロイヤルティも、非常に高額になり、金額も天文学的になりそうです。
今は、建築の意匠権はないのですから問題はないですが、数年後、意匠権侵害事件になったときには、数億円程度の損害賠償はざらに出てきそうです。
海外の建築についてのデータベースがあると聞いたこともありません。調査も審査もできない状態で、どうするのかと思います。オリンピックの佐野研二郎氏の大会エンブレムのような事件が起こりそうです。
これからは著作物と意匠の二重チェックの時代になりそうです。
比較法で見ても、建築を意匠登録している国は、どの程度あるのかと思います。
良く似たビルで意匠権といっても、プロにしか差がわからないのではないでしょうか。ユニークなものだけ保護した方が良さそうです。
日本の設計事務所は力がありますが、日本では建築基準法などが厳しく、あまりユニークな建築はできず、日本の事務所も、海外でユニークな建築をしていると聞いたことがあります。
海外でも建築物の保護をしてもらう必要がありますが、そのための布石でしょうか?
昔の工業上利用性の説明で、古い英国判例の50個未満のものは著作権で、50個以上のものは意匠法でという整理がありました。そこからすると、建築は一品製作物の極みですので、意匠法で保護する理由はなさそうなのですが、著作権法と意匠法は、ややこしくなりそうです。
ただ、意匠・商標の弁理士としては、ビジネスチャンスではあります。建築会社、不動産会社に、出願を提案できます。サービスマーク登録制度前夜と似ています。特許庁を含めて、先行意匠調査はどうするのか?と思いますが。
また、今回の説明では、アップル対サムソンのケースに言及がなかったのですが、意匠保護の強化の背景にはあります。
こちらは、ほとんど、アイデンティティとプライドの世界ですので、商標に近いものがあります。
昨日のIPランドスケープの本にも、アップルは商標と意匠の同時出願をしているとあります。