Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

セミナーに参加しました(応用美術の再検討1)

応用美術の保護(フランスとアメリカ)

2019年11月16日、早稲田大学で行われた、早稲田大学知的財産法制研究所(RCLIP)主催、デザインと法協会(JADELA)共催の、応用美術の保護に関するセミナーに参加しました。

「デザインと法協会」に興味があるのですが、ウィークデーが多いので、一度も行けていません。今回のセミナーは同協会は共催で主催は早稲田大学であり、土曜日開催でしたので行くことができました。

 

講演会とパネルディスカッションで、13:00-17:50という長丁場のセミナーでした。初めてなのですが懇親会にも参加しました。

 

講師(講演内容)は、パンテオンソルボンヌ大学のPollaud-Dulian(ポローデュリアン)教授(欧州司法裁判所の判例)、慶応義塾大学の奥邨弘司教授(アメリカの判例)、平井祐希弁護士・弁理士(日本の判例)、岡本岳弁護士・弁理士(裁判での考え方)です。パネルディスカッションのモデレーターは、早稲田大学の末宗達行講師でした。

 

以下は、セミナーを聞いて、理解したことです。

 <前提>

  • 日本の著作権法では、応用美術(純粋美術でないもの、人形、家具、日用品など)は、「美術工芸品」だけが著作権法で保護される(著作権法2条2項)。意匠法があるので、美術工芸品以外の応用美術は意匠法での保護が基本
  • しかし、意匠は出願しておかないと保護されず、費用がかさむ。意匠の期間経過後の話もある。そのため、裁判では、著作権法不正競争防止法での保護が求められている
  • 日本の判例では、近時はTRIPP TRAPP事件のように応用美術(同判決では「椅子」)でも、著作物と認めたものが出て、話題になっている

<ポローデュリアン教授(仏語からの通訳を聞いての理解ですので、間違っているかもしれません。)>

  • フランスでは、「美の一体性原則」がある。著作権法と意匠法についてのフランス法の歴史では、立法時は意匠法は一時的なもので、最終的には著作権法に一本化して意匠を保護しようと思っていた。この伝統の下、「美の一体性原則」があり、応用美術は意匠法でも著作権法でもどちらでも重複保護できると考える
  • 一方、ドイツやイタリアや英国では、応用美術を著作権法で保護するには「高度な芸術性」や「高い創作性」を要求する
  • 今回、ポルトガルの訴訟を契機に欧州司法裁判所にこの問題が付託され、フランスに近い判断が出た。著作者が創作をした(個性を発揮した)と考えられるなら、それで著作権法で保護可能となった
  • ただし、「機能のみ基づく形状」は著作権法で保護されない
  • なお、「機能のみに基づく形状」は、意匠でも保護されない。これは特許と意匠を区分けするためである
  • しかし、欧州指令や規則の側は、機能のみの意匠も保護する方向。EUIPOも保護する
  • この点につき、「多様性原則」がある。当該形状に他の選択肢もあるか否かで「のみ」を解釈する方法があるが、EUIPOは機能的な意匠を排除しないとして、「多様性原則」を不要とする(※著作権法ではどう考えるのか良く分かりませんが、少なくとも意匠法では機能のみに基づく意匠も当然に保護されると理解していました。フランス意匠法では、このような議論があるんだと思いました。)

<奥邨教授>

  • アメリカでも、美術工芸品は美術の著作物として保護される(ベルヌ条約の義務)。有名な例は、Mazerランプ事件。
  • 装飾品や玩具、仮面などの著作物となる蓋然性の高いものは実用品ではないとされ、創作性のテストに移る。一方、ベルト、衣類、織物、飛行機、マネキンなどの実用品は次の分離可能性テストが必要。
  • 実用品は(美術の著作物となる部分の)分離可能性テストが必要になる。分離できないものは、著作権法で保護されない
  • 分離可能性は著作権法の条文にある言葉であり、避けることはできないこの分離可能性テストについて、最近、Star Athletica事件(チアリーディングのユニフォームの事件)があり、現在、判例が揺れている
  • 傾向としては、最近は、実用品が著作権法で保護され始めているが、基本的には厳しい立場
  • なお、アメリカの著作権はコピーライト、欧州の著作権はオーサーズライトで、そもそも違う。アメリカでは、「額の汗の理論」があり、著作権の保護が拡大する方向がある
  • しかし、アメリカでも、意匠(特許)と著作権は区分けしようとする

 

<最後の質問で理解したこと>

なお、日本の著作権法は、1970法制定の時、フランス流の「美の一体性原則」を取らないと決めて、制定されている。よって、日本ではフランス法の解釈は取りにくく、アメリカに近くなる。 (※そうなんですね。意匠と著作権を区別しておきたいというのは、役所が別というのも大きいような気がしますが。。。)

(続く)