Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

知財のただ乗り

中国と知財制度の今後

2019年11月22日の日経のフィナンシャルタイプむのチーフ・エコノミスト・コメンテーターのマーティン・ウルフさんの、コラムを読みました。

(中国の)「知財『ただ乗り』は悪か」というタイトルのもので、技術流出は結局は不可避であり、中国とはWTOの枠組みの中で、互恵関係をつくることが重要としています。

 

内容としては、

  • 中国は、紙、印刷、火薬、羅針盤の技術を開発。これが15世紀以降の欧州の発展を促した
  • 知識はモノとはちがい、自由に行き来するものであり、経済学でいう「非競合性」を有し「公共財」の側面あり
  • オーストラリアのニコラス・グルーエンは、ただ乗りを許さないと、他の人がその発明やアイディア自由に発展させる「ただ乗りの機会」を封じるとする
  • 現在のただ乗り問題解決策の一時的独占権は、イノベーションを推進する一つの方策に過ぎない
  • ジョセフ・スティグリッツは、知財権の強化はイノベーションの低下とイノベーションへの投資の低下を招くと指摘
  • 18世紀から19世紀は英国が覇権国。繊維や鉄道の技術を米国は導入
  • 18世紀の後半になると、米国は、輸入品から産業保護へ
  • 中国は、既に、発明を更に進化させる国に

そして、結論として、

  • 今の知財権は絶対的なものではない。著作権の保護期間は過剰で、特許の取得は簡単すぎる。これが独占状態を助長
  • 中国への技術流出は避けられない
  • 中国に、すでに世界の最先端の分野あり
  • 知財権保護以外のイノベーションを持続するためのリソースと仕組みが重要
  • WTOの枠組みで、中国との互恵関係を築くことが重要

コメント

特許や著作権といった制度の限界についての話です。欧米(英国)では、このような指摘がされているのかと面白いなと思いました。

 

イノベーションは、特許制度がなくても進むという考え方は、案外にメジャーな考え方です。

旧ソ連の発明者証制度も、独占権の付与ではなく、名誉を顕彰するものです。

ノーベル賞のようなものや、学会発表という、アカデミックな世界でのイノベーションの推進方法もありますし、経済界でも補償金請求権のような対価請求の方法もあり、何も独占排他権だけが、方法ではありません。

電気電子の標準化やクロスライセンスなど、完全に補償金請求権のようなものです。

 

これと、医薬品な化学の物質特許の世界は、全く異質です。物質特許の世界は、ゼロイチの世界で、その物質が抑えられますし、世界の製品需要を一社で製造することも不可能ではないのかもしれません。

 

こうなると、医薬品や化学と、電気電子では、特許制度自体を2つに割ることも必要なように思います。

 

「公開代償独占権」と言いますが、特許がなくても、発明公開は進むという研究もあるようです。知財の世界には虚構が多く、単にゲームのルールと考えるべきなのかもしれません。

 

模倣は悪ではないという言い方もあります。中山先生の流れを汲む方は、だいたいそうだと思います。

そのような考え方は、特許でも著作物でも、その成立に高いレベルを要求するよう傾向があるようです。