協調へ 法務省が仲立ち
2019年11月25日の日経に、知財訴訟についての記事がありました。
知財訴訟 使いやすさ追求 国と経済界 対立から協調へ 米中欧に後れ 危機感共有 :日本経済新聞
- 今年の特許法改正の「査証制度」導入。経団連や知的財産協会の委員が外れたことなど、経団連と特許庁が対立
- 査証制度(原告が特許権侵害の立証を容易にするための、専門家が被告の工場に立ち入り証拠収集するもので、中小企業の要望)
- 法務省が仲立ち
- 知財訴訟をはじめとする裁判情報の電子化、オープンデータ化、アミカス・ブリーフ(重要事件に第三者の意見を募る)の導入、企業秘密情報の証拠開示を代理人弁護士に限る制度、などを検討
- 日本の知財(侵害)訴訟は、2017年は172件。米国は約4300件。ドイツは約700件
- 米、韓の3倍賠償(中は5倍賠償を審議中)や独の二段階訴訟制度(侵害の有無の認定と損害額の訴訟を分ける)
- 経団連はこの2つに反対
- 特許出願は、日本素通り(欧米企業の素通りは、2008年は4割。2015年は6割)
- 特許訴訟をする価値のある国(米国43%、ドイツ36%、日本0%)
コメント
侵害訴訟が172件というのは、少ないなという感じです。弁理士になりたての30年前も、研修で年間200件ぐらいと言っていたような気がします。数は増えていないなと思います。
この小さな市場に多くの知財弁護士がいて、彼らは何を仕事にしているのでしょうか。契約書のチェックでしょうか。
あるいは、アメリカの特許弁護士のように、明細書の作成でしょうか。技術出身の弁護士なら、それもありうるなという気はします。
ドイツの二段階訴訟は、判定制度の活性化でも対応できそうです。確か韓国は判定というか、確認審判制度が機能していると聞いたことがあります。
同じ記事に、企業としては訴訟が増えることが活性化ではないとあります。
訴訟以外にも、権利の売り込みや、海外の訴訟や、警告書案件にど、友好的なものを含んで、感覚的には日本の訴訟の数百倍程度はあると思います。それでもってテンテコマイなのに、更に日本の訴訟が増えるとたまらないというのが企業の本音のようなところだと思います。
海外で戦うのだから、日本ぐらいは平和にやりたいという感覚です。
それだけ、訴訟は面倒であって、怖がられている、恐れられている、ということもできます。訴訟が入ると、1年間なり、2年間なり、その担当者は何もできなくなると聞いたこともあります。
このあたりは、日本にも沢山いる知財弁護士がバックアップできるところですが、企業としてはコストがかかるという点があります。
どちらにせよ、警告書案件などは、ある程度の数がある訳ですから、このうち、当事者同士で議論するよりも、外の機関を入れた方が、結論が出るのが早かったり、コストが安いなら、そちらに行くように思います。
そういう議論ではなく、今の議論は訴訟の価値を上げることにはなるのですが、一挙に、企業の負担の増える3倍賠償の議論になると、議論ができないと拒絶反応になるのだと思います。
経産省(特許庁)としては、大企業支援よりも、スタートアップ支援をした方が、経済が活性化するという目論見もあるのでしょうし、長い目で見て、どちらが良いのか良く分かりません。
海外の制度のつまみ食いが良くないのは、そうだと思います。民法改正ではないですが、昭和34年法を作ったときのように、一から、特許法を作るぐらいの覚悟が必要なのではないでしょうか。