意匠が伸びている
2019年12月10日、弁理士会の研修会に参加しました。タイトルは表題のものです。サブタイトルに「米国における意匠の保護と権利行使についての戦略」とあります。
講師は、McAndrews事務所のChristopher V. Carani氏です。
英語の勉強になると思って参加したのですが、逐次通訳もあって、自分では聞き逃した点も説明してくれるので内容も理解しやすく、ありがたい研修会でした。
3時間で、240ページのスライドは、凄い量の資料です。しかし、意匠の話は図面がないと分からないので、良かったように思います。
数字から見ると、米国の意匠は、1988年には5,000件/件の意匠特許付与件数だったのに、2018年はそれが35,000件になり、2019年は40,000件になりそうということでした。
米国の意匠は、特許の一種で、技術の特許はUtility Patent、意匠の特許はDesign Patentといい特許の一種です。日本とは違います。
そのため、意匠登録とは云わないようです(意匠では、登録/Registrationという言葉は使わない。類似/Similarityという言葉も使わない。権利範囲は、本質的に同一/Substantially the Sameで見る)。
意匠は、USPTOのKavid Kappos長官が退官後はじめて書いた論文のタイトルが「Design」だったこともあり、注目の分野だそうです。
最近の一番の話題は、AppleとSamsungのスマホの意匠特許の争いで、特許権侵害としては史上最高額の評決時の損害倍書額(1.05B$=1,155億円)が出た(※実際は和解)ということです。
研修会は、歴史からスタートして、iPhoneの話ということで、表題のタイトルになっているのですが、歴史は、初の米国最高裁の意匠の裁判(スプーン事件)から説明がありました。
その問題のスプーンの本物(アンティーク)を持参していただき、会場に回覧していただきました。サービス精神のある講師です。
そして、Nobelty/新規性やNon-Obviousness/非自明性、Functionality/機能性に及ぶというものです。
このあたりは、米国特許法の理解があると、スムーズに理解できるところです。
また、Prior Art/先行意匠の話などがありました。
さて、講師が云いたかったのは2つかなと思います。
一つはGUIです。通常の意匠出願は、年率7%から8%で増加しているそうですが、GUIの意匠出願は、年率700%という数字だそうです。Appleのスマホの例をとり、線図のiPhoneの全体像の権利、白黒の画面の権利、カラーの画面の権利と、線図、白黒、カラーの使い分けが重要という話がありました。
これは、先ほどのSamsungとの裁判で、Jury/陪審が動いたのは、カラーをみて、類似性があると判断したためとあります。
出願では、白黒、その反転の黒白、カラーを出願すると云っていました。
二つめは、Continuation/継続出願です。米国には関連意匠も秘密意匠もないが、継続出願があるということで、これを上手く使えるかどうかがポイントのようです。
意匠特許付与時=公開時=までは、継続出願が可能で、子の継続出願継続中は孫の継続出願が可能です。
継続出願には、一番はじめのSpecification(ここでは図面)、に包含されている内容であれば、いつまでも継続出願できるそうです。
なんとAppleは、2007年のiPhoneの発売時の親出願の継続出願を、今(2019年)も新規にやっているそうです。
日本の関連意匠の法改正以上の状態です。ここは、驚きました。
ちなみに、Appleは、iPhoneの発売2日前に、120件の意匠を出願したそうです。
あとで意匠に詳しい日本の弁理士さんと話をしたのですが、この継続出願を活用した米国意匠出願をやっている日本の出願人はほとんどいないのではないかと言っていました。
日本の関連意匠でも、戦略的に上手に使っている会社はそれほどいないと思いますので、いわんや米国までということでしょうか。
米国意匠というと、陰影線を入れる図面の書き方ぐらいしか目がいかなかったのですが、ITの時代になって、画面遷移のCX(Customer experience)やGUIが重要なので、その部分のアイディアが、大挙して意匠特許に来ている感じです。
10年間ぐらい仕事量の3分の1は意匠をしていましたし、日本一意匠出願を出している会社の社内代理人だった時期も数年間あります。
また、チャンスがあれば意匠にも関わってみたいなと思いました。