Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

エンゼルのほっぺ

森永のエンゼル・スマイル・プロジェクト

2019年12月3日の朝日新聞に、森永製菓が川崎市の菓子店に、休眠特許をライセンスして成功しているという話が出ています。

  • 抹茶などに含まれるカテキンと、チョコレートに含まれるカカオポリフェノールを一定の割合で混ぜると、体脂肪を減らす効果。森永製菓の特許技術
  • 森永では商品化に至らず
  • 保有特許の半数近くは休眠特許であり、ほかに使わせることはできないか
  • 森永は川崎市新興財団に相談
  • 川崎市の末広庵が、商品化
  • 商品名もライセンス(エンゼルのほっぺ)
  • 売上の2~3%で、年間数十万円にしかならない。森永はライセンス料を取らず、菓子店が一個あたり1円を、音楽のまち・かわさき推進協議会に寄付

という内容です。

 

コメント

はじめに思ったのは、「エンゼル」なんて重要な商標を他社にライセンスしていいの?という点です。商標管理の常識からすると疑問です。

 

森永では、「エンゼル・スマイル・プロジェクト」というものをやっているようです。森永のリリースを見ると、

「エンゼル・スマイル・プロジェクト」は、2013年に発足し、森永製菓が保有する「天使」「エンゼル」の商標等の知的財産権を活用した社会貢献活動です。具体的にはこれら商標権を希望される他の食品製造・販売・提供企業等に貸し出し、その商標権を使用する企業が商標権の使用料を森永製菓に支払う代わりに、子どもたちの育成・教育環境改善に寄与する社会貢献活動に携わっていただく取り組みです。

『エンゼル・スマイル・プロジェクト』活動 森永製菓の特許技術で老舗和菓子店『菓子匠末広庵』が商品化 売上の一部を子どもたちのために寄付 | 2019年 | ニュースリリース | 森永製菓

とあります。

 

この他にも数件、エンゼル・スマイル・プロジェクトで、商標をライセンスしているものがあるようです。

  • ユーグレナエンゼル プロビィ
  • 天使のミックスナッツ
  • 天使のパイリング

今回は、このプロジェクトに特許も入った点が、特徴です。

 

この商品は、末広庵のオンラインサイトでも販売しており、6個1000円です。サイトには、詳しい開発ストーリーも掲載されています。

エンゼルのほっぺ 6個入 ★ 和菓子 菓子匠末広庵オンラインショップ

 

森永のエンゼル・スマイル・プロジェクトですが、ライセンス対象は、同社の「天使」「エンゼル」だと思います。

天使のチョコリング」事件があり、「天使のチョコリング」は全体観察するだけではなく、「天使」とそれ以外に分けて観察することになり、「天使」に類似すると判断されています。その線に沿った活動だと思います。

天使のチョコリング事件)

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/174/081174_hanrei.pdf#search=%27%E5%A4%A9%E4%BD%BF%E3%81%AE%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E4%BA%8B%E4%BB%B6%27

 

「チョコリング」や、「ミックスナッツ」「パイリング」は、商品の普通名称とも言えますので、「天使」のみが要部なるのは、分かるように思います。

このプロジェクトは、放置しておくと、結合商標の一部として、第三者に権利化されてしまう「天使〇〇」を、森永からのライセンスという構成にして、お墨付きをあたえ、コントロール下に置こうとするものではないかと思います。

「天使」「エンゼル」は、森永にとってはハウスマークのようなものですが、他の言葉と結合することで、容易に別登録になりそうな言葉でもあります。

その微妙なバランスを狙ったプロジェクトと理解しました。

オープンにライセンスすることで、少なくとも、「天使」+「商品の普通名称(かそれに近いもの)」については、第三者の登録を排除する効果があるのではないでしょうか。

利益を社会貢献するのは、その正当性を理由づけるためと理解しました。ちょっと変わっていますが、これ自体は非常に面白い取り組みです。

 

しかし、「天使のほっぺ」は、全体で意味があるので、「天使」とは別商標となりそうです。

ある程度、マスコミに出て、周知商標となっているので、第三者排除効は期待できますが、別登録になってもおかしくないように思います。

森永が商標出願しておくべきと思いますが。。。