Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

良品計画が中国で敗訴

なぜ「無印良品」が商標権侵害訴訟で負けるのだろうか?

2019年12月19日のAFPBB Newsに、北京市高級人民法院での「無印良品」をめぐる訴訟で、日本の良品計画及びその子会社が敗訴したという記事がありました。中国のCNSから配信のようです。

「無印良品」の商標訴訟、良品計画が敗訴 中国 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

  • 原告は、北京棉田(Miantian)紡織品で、「無印良品」の商標登録を所有
  • 被告は、日本の無印良品と中国のその子会社
  • 日本の良品計画およびその子会社に対し、侵害を停止するとともに、その権利侵害の影響を消し去り、損害賠償金50万元(約780万円)と諸費用12万6000元(約200万円)を支払うよう命じた
  • カバン、シューズ、家具類のソファ、寝具、織物のペンケースやデスクマットの商標は、「無印良品MUJI」から「MUJI」へ名称変更していると、日本の無印良品は声明を発表
  • 日本の無印良品は中国に進出する前、事前に商標登録を実施せず
  • 中国の「無印良品」が一部の商品で先に商標登録してしまったことが原因
  • 意識の高い中国企業は、経営活動を始める前に、事前に、自身の経営する商品やサービスやその他の領域についても登録し、事前に他社の割り込みを防止
  • 外市場に進出する際に、数年前から相手先市場における類似商標の状況を調査し、他社に利用されないようにしている

コメント

最高人民法院もありますが、中国は二審制度なので、通常は知財事件は上告できないと云われています。おそらくこれで確定ではないでしょうか。

 

CNS(China News Service)の配信ですので、中国から視点ですので、日本での受け止め方とは違うような書きっぷりです。

 

日本の感覚は、2018年11月9日付けの、一審判決が出た時の日経ビジネスの感覚だと思います。

中国・無印良品のパクリが商標権侵害勝訴の謎 (5ページ目):日経ビジネス電子版

この日経ビジネスによると、中国人の間でも、相手方の北京棉田紡織品は、パクリだと認識されていることになります。

 

さて、CNIPAのWebサイトでチェックすると、1999年11月17日に、良品計画が9区分(24類は含まず)ほど出願しています。商標は下記です。「MUJI」が大きく、「無地良品」はサブです。

 

ちなみに、日本のJ Plat Patをみると、1995年に、すでに、これと同じ態様の商標が出願されていますので、ブランド戦略上「無印良品」ではなく、「MUJI」をメインに使用とする意図が感じられます。

海外子会社の名称も「MUJI」〇〇というMUJI接頭辞商号ですので、コーポレートブランディングとしても、「MUJI」が基本なのだと思います。

 

世間では「無印良品」のことを省略するとき「MUJI」「ムジ」ではなく、「ムジルシ」とニックネームで呼んでいる人が多いのではないでしょうか。

どうも、企業の意図と世間の認識がズレている例のような気がします。一つのブランド問題です。

商標登録の態様からすると、中国の当局者は、「MUJI」がメインで「無印良品」がサブ(中国語のルビのようなもの)というようにも見てしまいます。

 

日本の良品計画が出願した時点で、3件ほどの先行商標があります。

 

そして、今回の相手方の24類の出願は、2000年4月6日に、出願されています。相手方の商標は簡体字です。「無印良品」の「無」が日本語で中国の簡体字とは違う点も特徴です。

 

その後、良品計画は、多くの分類を出願して、権利化しているようですが、今回の相手方は、24類ではその後も商標出願・商標登録を積み重ねているようです。

 

先願登録主義のもとでは、やはり、はじめに、多くの商品分類について、出願しなかった点は悔やまれます。

 

日経ビジネスによると、相手方は30店舗ほどの実店舗を運営しているようです。

実際、訴訟をしたのかどうか不明ですが、その時に、日本の良品計画が侵害訴訟を起こしているかどうかもポイントだと思います。

訴訟を躊躇している間に、相手方の既得権が積み上げっていきます。日本企業は訴訟を嫌う傾向があるので、もしかするとやっていないのではないかと想像します。

 

また、中国の場合、医薬品などを除き、小売り役務が商標登録の対象として認められておらず、関係する商品区分で商標登録をコツコツと積み重ねる必要があります。小売りの35類があればと思います。

 

最後に、影響しているのは、日本の良品計画の商号です。日本の商号を「無印良品」にしておらば、第24類で商標権がなくても、それも一つの根拠とできた可能性はあります。ここも、同社のブランド問題です。社名とメインの商標とがちぐはぐでは、知財の保護が分散されます。

 

日本人には、本家がパクリになぜ負けるのかと不思議に思うこの訴訟ですが、同じ轍を踏まないために、一度、きっちり振り返ってみる価値がありそうです。

 

相手方の商標登録の無効は行政上の手続きで、そちらで勝たない限り裁判所はこう判断せざるを得ない仕組みなのか、侵害訴訟中に抗弁として無効が主張できる仕組みのかは確認しないと良く分かりません。

しかし、そもそもの、良品計画の商標管理とブランドマネジメントに課題がありそうです。