Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

コングロマリットディスカウントの解消

スピンオフ~古典的な商標管理とは正反対~

2019年12月23日の日経に、「子会社の分離上場が広がるか」という記事があります。スピンオフのことで、税制が改正されて第1号が出たという話です。

子会社分離上場 広がるか スピンオフ、税制改正で第1号 成長加速/「株主の視点」課題 :日本経済新聞

  • 2017年の税制改正後、子会社と本体を資本関係のない独立した会社にする会社分割(スピンオフ)の第1号
  • コシダカHD(まねきねこブランドのカラオケを展開)が、フィットネス子会社のカーブスHDを分離
  • 両者は営業上の相乗効果がない。成長を速め、従業員に緊張感を持ってもらうため
  • カーブスHDを単独上場へ
  • 手法としては、親会社の保有株を一部売却する方法(親子上場)と、親会社の株主に子会社の株式を割り当てる方法
  • しかし、親子上場には批判あり。今回は、後者
  • スピンオフは、コングロマリットディスカウント(多角化部門を多く抱える企業の経営効率が悪くなり、企業価値を最大化できないこと)を解消すると期待
  • 事例としては、ダウ・デュポンが3社に分割。イーベイがペイパルを分離。P&Gなど

コメント

税制のことは理解が難しいのですが、中外製薬がロッシュのグループに入るときに、米国子会社を分離して、実際には差益が発生しないのに、350億円支払う必要があったことがあるそうです。

アメリカでは、コングロマリットディスカウントを解消する方法として、スピンオフが活用されているそうです。10年で300社ほどが利用して、合計時価総額も高くなる傾向とあります。

 

スピンオフというと、大企業で新規事業を考案したが、大企業の内部では企業化できないので、外でするものをいうのかと思っていました。

言葉の意味からすると、そのような限定はないので、企業の企業分割一般を指すと言えるのだと思います。

 

記事にもありましたが、経営者の立場に立つか、株主の立場に立つかで、違いはあります。経営者は、スピンオフで事業が縮小します。株主としては、子会社が機動的になり成長による利益が見込めます。株主のことを考えるとスピンオフなんだと思いました。

今回は、コシダカHDの株主は、コシダカHDの社長が約4割の株式を持つようであり、経営の最終意思決定者は個人としての社長であるというのも、やりやすかった理由のようです。

 

日本でも昔は企業のスピンオフが多かったように思います。ダイセルから富士フィルム富士電機から富士通富士通からファナックなど、今回の意味でのスピンオフです。ヤマハヤマハ発動機なども同じ系統です。

 

商標管理やブランドマネジメントでは、親会社でハウスマーク/コーポレートブランドを名義等を含めて一括管理して、親から子会社にライセンスすることが多いと思います。そして、ハウスマークのライセンスは、50%超の子会社に限定して、子会社にガバナンスを効かせます。

100%子会社にしかブランドライセンスしない会社などもあり、もっと基準が厳しい会社もあります。そして、これがブランドを守る一番の方法と言われたりします。

 

しかし、これは視点を変えると、スピンオフやカーブアウトを極力防ぐ方法で、今の親会社の経営陣のための管理手法という感じはします。

商標の名義の戦略など、本当は経営学的にもっと分析すべきものだと思いますが、そのような分析をしている経営学者、ブランドマネジメント学者は聞いたことがなく、企業の知財担当が上に述べたような考えでやっているのが実情です。

 

ブランドネームが、ダイセル富士フィルム富士電機富士通富士通と(富士通ファナックというように、異なるときは、まだ、スピンアウトは可能だと思います。

 

しかし、ヤマハヤマハ発動機など、多少の図形の違いやカラーの違いはあるとして、ほぼブランドは同じです。以前研修会で、数年前に商標管理をまとめようという話になったが、結局、できなかったと聞いたことがあります。

 

日本の上に記載した事例は、何十年もかけて、この形態に落ち着いたのだと思います。記事にある税制改正で、少しは促進されるのかもしれません。

 

スピンオフを認めるというのは、商標管理やブランドマネジメントの立場を超えた、記事にあるような、株主のため、事業の発展のためという、大儀が必要です。

そういえば、財閥解体でそうなってしまったのですが、三菱や三井、住友などは、結果としては、コーポレートブランドを共通にしながらのスピンオフで、上手くいっている事例だと思います。