髙部眞規子知財高裁裁判長の講演
2020年2月10日、ニッショーホールで行われた髙部判事の講演会に出席しました。タイトルは、「知的財産権訴訟の諸問題ー商標関係訴訟を中心にー」でした。3時間ほどの研修会です。
内容は、裁判で出てくる商標法の条文の解説を交えながら、最高裁や知財高裁(東京高裁)の判例を概観するものでした。最近の判例をやるのかなと思ったのですが、違いました。
目次としては、
- はじめに
- 商標の類否
- 登録要件
- 商標権侵害の成否
- 終わりに
ですが、商標の類否に半分の時間を取っていましたので、ここが一番のポイントだったのだと思います。
紹介してもらった判例は、
(商標の類否の最高裁判決として)
- 氷山事件:
- 大森林事件
- 小僧寿し事件
まとめとしては、
①商標の類否は外観、称呼、観念の全体的に考察する(一つだけで決めるのではない)
②商品の取引の実情を明らかにする
③商品の出所混同のおそれで判断する
というようなものです。
(問題になりやすい結合商標の類否についての最高裁判決として)
- リラ宝塚事件
- SEIKO EYE事件
- つつみのおひなっこや事件
まとめとしては、要部抽出できるのは、
①支配的な印象を与えるものが要部
②出所表示機能の低い部分は要部抽出の対象ではない
③結合の不可分性がないこと
とあります。
(結合商標の類否についての高裁判決として)
コールマン事件以下は、参考のようです。
さて、個人的にはユートピア事件はすごいな思いました。ズバリ類似と思ったのですが、識別力なしで要部認定しないのですね。
ただ、あとの質問タイムで、3名の方が同じReebok事件について質問をしていました。弁理士業界からは、批判があるようです。
これは、「大きくReebok+大きく旗の図形+小さくROYAL FLAG」とあるのと「REEBOK ROYAL FLAG」の2つの商標をリーボックが出願して、引用例として「ROYAL FLAG」が引かれたものです。これが認められるなら、なんでもありになるという弁理士業界の不満があるようです。
ただ、この議論は、アメリカでは良く聞きます。アメリカの戦闘的な弁護士に商標調査の依頼を出すと、(使用するときに)ハウスマークをつければ何でも識別可能というような意見を言う人がいます。侵害事件まで踏み込んで、商標調査をしているためでもありますが。
(4条1項15号の著名商標の保護の最高裁判決として)
- レールデュタン事件
- POLO CLUB事件
(4条1項15号の高裁判決の)
- GUZZILLA事件
(商品の類否のリーディングケースとしての最高裁判決)
- 橘正宗事件
- Peacock事件
- 三国一事件
(権利濫用について)
- エマックス事件
エマックスは、担当した弁理士の広瀬先生の話を聞いたこともあるのですが、髙部判事の話を聞いても難しいなと思いました。
詳細は説明しきれないのですが、感じたのは、
というようなところです。
非常に上手く説明されていた印象があります。
個人的には、立法論としては、類似のような相対的なものを裁判所や弁理士が突き詰めてもしかたないところがあり、これは同意書で当事者に任せるべきものだと思います。
髙部判事は、商標の場合は当事者での和解が多いという話をされていました。同じような趣旨と理解しました。
同じ類似という言葉ですが、登録の時の類似と禁止権の類似は違うという意見を聞くことがありますが、一緒に説明されていたので、区別はしていないと思いました。
同意書に特許庁が反対するのは、類似がなくなると審査がなくなるという心配があるのだと思います。制度設計次第ではそんなことはないので心配しすぎです。
この研修は、抽選制であたったので行けたのですが、東京の弁理士はこんな研修会に参加できて恵まれているなと思いました。
大阪や名古屋でも、知財高裁の裁判長が解説してくれる研修会はやっているのかというと、あまりなさそうに思います。
ネットで、大阪、名古屋などにつなげばよいと思いますが、そこまでは、やっていないようです。
あと、新型コロナウィルスの防衛のためでしょうか、マスクをしている人が非常に多くて、異様な研修会でした。