知財管理 2019年12月号
知財管理の2019年12月号に「海外子会社との知財関連取引時の移転価格税制に関する問題の考察」という論考がありましたので読みました。知財協会の2018年度のライセンス第2委員会の第1小委員会のものです。
以前の会社で、子会社に対するブランドライセンス契約を担当したときに、移転価格税制のところも経理や外部税理士に教えてもらったりしたので、興味を持って読むことができました。
この論考は、特許を中心としたものであり、必ずしも商標に焦点は当てておりませんが、移転価格税制の知財パーソンにとっての考え方は同じですす、新しい動きの説明もあり、参考になりました。
全体に、難しい移転価格税制を、分かりやすくまとめているなと思います。上手に場合分けされているなと思いました。是非、論考を見てください。以下は、メモのようなものです。
移転価格税制:
異なる国・地域に存在する親子関係等にある会社(以下、「関連者」という。)間において行われる取引価格が、親子関係等にない独立した第三者(以下、「非関連者」という。)との間で行われる取引に比べて、高額又は定額に設定されることによって、一方の国で生じた所得が相手方の国に移転することを防ぐために、当該一方の国の税務当局が、関連者間の当該取引が非関連者との取引価格(以下、「独立企業間価格」という。)で行われたものとみなし、自国に所在する関連者に対し、それと乖離する金額を益金に参入させ、又は損金への参入を認めないことにより課税所得金額を算定し、課税する制度である。
国外関連者と取引を行う際、移転価格を考慮して、独立企業間取引と乖離しない価格を設定し、取引を行う必要があります。
このために、ハウスマークについてのブランドライセンスなどは、全世界一律に〇.△%のうような料率にしている企業も多いのではないかと思います。
この論考によると「移転価格税制と価値創造の一致」という考え方があるようです。「OECD移転価格ガイドライン 2017年版」では、法的所有権の帰属のみではなく、当該無形資産の開発、改良、維持、保護、使用(DEMPE機能)や、使用する資産、引き受けるべきリスクに応じて、無形資産から生じた利益の帰属先は決まるとなっているとあります。
すなわち、法的な名義ではなく、無形資産の価値創出への貢献度合いで、利益の帰属先になるということです。
※ ブランドを利用した資金回収を考えるときも、本当は、このDEMPE機能分析をして、事業スキームを組み立てる必要があるのですが、ブランドについては本社の役割や権限が強いということで、DEMPE機能分析でも問題なしとなっているんだろうなとも思います。
単純に名義が本社名義だからというだけではNGで、戦略決定、企画管理、予算、重要な決定、機能の質の品質管理などを、本社が機能分担していないと、本社が利益の帰属先にならないようです。
ここは、ブランドについては、本社に機能を残すべきと主張する大きな根拠になります。ややもすると、海外の現地の人の方が発言権が強くなり、すべてがバラバラになる傾向があるので、そうならないために、この移転価格の考え方は利用できます。
このDEMPE機能の役割分担は、単に契約書だけではなく、多国籍企業グループ間の移転価格文書(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)や稟議書などの社内文書に残すとあります。
次に、この論考の分かりやすい点は、想定事例を複数あげて分析している点ですが、国・地域が違えば物価や、売上、知名度、その他の取引価格が異なることも多いので、ロイヤルティ料率が異なることも考えられるが、同じ国の2つの子会社対象に料率を変えることは難しいなどとして、説明してくれている点です。
最後に、最近は企業再編が多いということで、譲渡について論じていますが、ハウスマークは、さすがに本社のもので、譲渡することはないと思いますので、ここはブランドではあまり関係ないかなと思って読みました。
ブランドについては、一律の料率というのは、分かりやすいですし、仕方ないかなという気がしますが、本当は、商品やサービスでも認知度は異なりますし、アジアでは高い認知度があるが欧州ではそれほどでもないとか、多少は価値に差はあるような気はしています。
しかし、あまりややこしく考えると説明できなくなるので、世界のブランドライセンスが生み出した現場の知恵が、一律〇.△%何だろうと思います。