証拠能力についての考え方(決議)
AIPPI誌の2020年1月号に商標の消費者調査による証拠について、青木博通弁理士のまとめがありました。
欧州、米国、中国の消費者調査(アンケート調査)についての法令や判例をざっと外観して、日本部会の意見を記載し、2019年のAIPPIのロンドン会議での議論、決議に及ぶという内容です。
Resolution(決議)は、次のようなものです。
- 証拠能力:商標の法的手続きにおいて証拠能力があるとすべきだが、義務付けない
- 対象となる法的手続きの種類:行政、司法におけるあらゆる法的手続きにおいて
- 証明される事実や状況:名声、識別力、混同など
- 調査設計:調査目的、方法、回答者の人数・選定、質問形式、順序などの指針を定めるべき
- 目標数値:十分に証明されたという回答割合(%)は定めるべきではない
- 調査設計への行政・司法の関与:関与すべきではない
- 証拠としての重み・価値:ケースバイケース
コメント
周知著名になっていること、後発的な識別性の獲得、混同が生じていることなど、アンケート調査で測るのが一番客観的ではないかと思われます。
防護標章登録を取得したいという理由で、直接の競業者ではない他社から、著名であることを認める宣誓書の発行の依頼を受けたりしたことがあります。
また。混同の有無を判断するための同意書は、当事者が混同は生じていないということを回答しているという意味で、アンケートの究極の形ということもできます。
Wikipediaの「アンケート」の説明は以下です。
元々は対面による会話なども含めていたが、現在は調査研究の方法として、質問紙法をさす場合が多い。社会調査の手法の1つとして知られている。アンケートという語はフランス語に由来し、英語ではサーベイ(survey)またはクェスチョネア(questionnaire)という。
このアンケートの手法は、世論調査やマーケティングで活用させているもので、統計学的な考え方がベースとなりますが、日本の商標実務では非常に低く見られているようです。
特許庁でも裁判所でも、アンケートを尊重するという話をあまり聞きません。
おそらく、行政や司法には、アンケートは質問票の作り方や、アンケート対象の母集団の作り方などで、誘導尋問的なことが可能であり、そのようなものに左右されたくないという気持ちがあるのだと思います。
一方、活用する企業側も、統計的な手法でのアンケートはコストがかかるので、あまり広がってほしくないというのだと思います。
ブランドマネジメントは法律の領域ではなく、経営学やマーケティングの領域ですので、アンケートは必須なのですが、日本の法律の運用は遅れているなという気がします。
米国では、そもそも、異議でも訴訟でも非常にコストがかかりますので、アンケートに多少コストをかけても、それほどの負担にならないのかもしれません。
また、欧米企業の行動自体、マーケティングリサーチがベースになっているので、経験と勘の日本企業とは少し違うのだろうと思います。
その意味では、商標に消費者調査が根付くのは、企業でのマーケティングリサーチが本格的に根付いた後になるかもしれません。
しかし、これが根付けば、経験と勘のレベルから、一挙に科学的な判断になりますので、現在のような定型的な類似判断はなくなるかもしれません。
アンケートは、新しい商標の登録などでは、周知性の立証のために活用されているようですが、まだまだなように思います。
AIPPIの決議でもアンケート設計の「指針」が必要としていますが、この「指針」を作らない限りは、日本では前に進まないように思います。