Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

氏名商標の登録

4条1項8号について

2020年3月号の「発明」誌で、友利昴さんの「企業と商標のウマい付き合い方談義」の第38回「氏名系商標」の登録は難しい!?(4条1項8号編)を読みました。

 

  • 商標法4条1項8号:「他人の氏名」については、他人の承諾がないと登録できない
  • 最高裁は、人には「自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益」があるとし、その利益を保護するためのものである判示(H16 (行ヒ)第343号「国際自由学園事件」)
  • 登録されなかった例:南実のかぼちゃ、山岸一雄大勝軒村上隆/Takashi Murakami
  • 個人からの承諾書の取得は現実には難しい
  • 実務では、大文字小文字を変える、そんな個人は存在しない、「現存しない」と主張するなどのテクニック
  • 反対に登録された例:PETER BROWN、Yuri Kojima、村上春樹倉木麻衣長嶋茂雄など
  • NTTの電話帳に載っている一般人は「現存している」と推定(H31(行ケ)第10037号「KEN KIKUCHI事件」)
  • 特許庁の判断にも揺れがある。そもそも保護法益があいまい
  • 少なくとも審査基準を改正してはどうか

というような内容です。詳しくは、発明をご確認ください。

 

コメント

ファッション関係、料理人や芸能人の氏名など、「氏名」はひとつの大きな商標の源ですので、商標登録を取りたい人は多いと思います。商標登録取得を依頼された弁理士としては、困ることがありそうな内容だなと思いました。

 

ありふれた氏は、3条1項4号で、識別性がないものとして拒絶されます。ただし、識別性がないものであっても、3条2項で使用による特別顕著性の獲得を証明できれば、登録になります。

 

ありふれた氏(トヨタ、ホンダなど)でさえ、使用によっては登録になるのですから、氏名の場合は氏よりもずっと複雑ですし、識別性については問題ありません。

 

4条に記載があるとうことは、個別の理由による不登録事由ということですが、人格権の保護ということであれば、異議申立や無効審判の対象にして、審査からは除外しておいても良さそうです。

 

審査基準を改正して、審査で引用するのは、誰もが知っている有名なものに限定するというのが方法ではありますが、如何せん条文があるので、審査基準の改正では、文理上、引用する氏名を有名なものに限定するのは難しいように思います。

 

あるとすると審査基準の改正で、ちょめいなものは別としても、備考類似のように、情報提供や異議申立てがあった場合に審査するとするのが、良いような感じです。

 

3条の方のありふれた氏かかどうかの判断で良く使うのだと思いますが、電話帳の問題があります。

「電話帳」と検索すると、携帯電話の電話帳が出てきます。NTTのタウンページもありますが、ハローページは出てきません。

だいぶ検索するとやっとハローページが出ていきますが、個人版ではありません。

 

昔は、電話帳(ハローページの個人版)などは、各家庭に一冊配られ、個人の氏名はオープンになっていましたが、今は、特殊詐欺などのデータソースになっているなど批判があり、ほとんど目にしません。

このNTTの電話帳云々という議論は、3条1項4号でも4条1項8号でも、もうやめても良い時期ではないかと思いました。