Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

知財契約担当者の育成・教育

知財管理 2020年3月号

2020年3月の知財管理誌に、「知財契約担当者の育成・教育に関する調査研究」という論説がありました。2018年度のライセンス第1委員会の第3小委員会がまとめたものです。

知財の仕事の中に、知財契約担当という仕事があり、AI・IoT・ビッグデータなどをはじめ、最近は知財契約の仕事が増えており、その育成・研修は各社が悩んでおり、それを委員会メンバーへのアンケートをとって、分析、提言しているものです。

  • 育成計画がない企業が全体の50%
  • 契約案件の共有化の仕組みがない企業が42%
  • 契約業務の流れの分析
  • 求められる知識としては、法律等の知識(78%)、事業方針(62%)自社技術(45%)など
  • 求められる能力としては、リスク察知力(63%)、法律知識活用力(56%)、契約スキーム提案力(52%)など
  • 応用力、語学力、バランス感覚、ビジネス感覚も必要
  • 大手企業は社内研修が充実。社外研修は有用。その他に、教育システムとして、業務マニュアル、契約書雛形、チェックリスト、契約情報共有システム
  • OJTの重要性。グループでの案件検討、非担当案件の共有、過去の失敗事例の共有、若手には雛形/チェックリストの更新・改訂をしてもらうと教育効果が高い

などとなっています。

 

コメント

知財契約担当者を育成する方法について、良くまとまっている論考だと思いました。

 

特に、この論考の中に、大手企業が実施している知財契約の研修のカリキュラムがあり、その立派なことに驚きました。それだけ、専門性が高いということなんだと思います。

特許出願担当者や技術者が、知財契約担当になった場合には、このカリキュラムは有用だろうなと思います。

 

私が企業の知財部に入ったころは、法務と知財が共同して、知財契約を担当していました。技術的や特許は知財部が詳しいのですが、特に海外関係の訴訟や契約は特殊なので、法務の国際契約のメンバーと知財部のメンバーが一緒に仕事をしていました。

一方、国内特許の係争や契約は、知財部でも、外部の弁護士の協力を適宜得るなどして、十分処理できていたように思います。

 

ところが、20年~15年前ぐらいでしょうか、知財部に国際契約のメンバーを迎え入れました。部門が違うことで、担当役員が違うことになりますので、多少の意思疎通の悪さがあったのかもしれません。

また、新入社員で英語のできる文科系を沢山採用して、知財契約を強化し始めました。一時は法務よりも、知財の方が優秀な人材が集まると云われていたようです。

 

法務部であれば、特許以外にも、会社設立、M&A、営業関係の契約、独禁法や景表法、著作権不正競争防止法、情報セキュリティ関係など法律分野も多岐に亘ります。

一方、知財部では秘密保持契約、共同開発契約、知財のライセンス関係と、限定的です。明細書を書いていた知財部員としては、ここまでできれば十分ですが、優秀な文科系の人間に、この技術契約だけで良いのかというのは疑問だなと思っていました。

 

法務とのローテーションは一つの解決策です。

あるいは、優秀な若手に文科系であっても、まず、明細書や中間処理をさせるのも方法ですし、意匠・商標でも良いかもしれません。

しかし、あまり、新入社員を知財契約の仕事だけされるのはどうかという気はします。

 

仕事を通じた自己実現が出てきていれば良いのですが、現実にはなかなかそういかず、折角の優秀な若手が、法曹になるためにロースクールに飛び出す、海外研修後に海外にに飛び出す、あるいは他社に出ていく、ということになるような気がします。

 

私見ですが、知財契約は専門性が高い、難しい業務であるのはその通りですが、新入社員から、あまり、早い時期に、知財契約に特化しすぎるのはどうかという気がします。