Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

EU意匠の判例

ポルシェとフォルクスワーゲン

2020年2月号の「AIPPI」に、「EU意匠判例法ー自動車産業にとって新たな試練なのか」という論説がありました。筆者はDr. Charistian T. Thomas氏とあります。

 

内容としては、2つの自動車の意匠の判例を取り上げています。どちらも、玩具メーカーから自動車メーカーが訴えらたものです。欧州の共同体意匠権は商品・役務を超えて権利範囲があり、自動車の形状についての意匠権はおもちゃにダイレクトに及ぶため、おもちゃを製造販売したい、玩具メーカーとしてはライセンスを得るか、意匠権を無効にするかが必要なようです。

 

  1. Porshe事件(T-209/18):こちらは、911シリーズの過去のモデルと新モデルでの対比で、新規性、独自性が欠如して、無効になった事例です。
  2. VWバス事件(T-43/18、T-191/18、T192/18):こちらは、VWのバンの旧モデルをベースとした無効についての争いで、権利は有効という判決です。

2件で、結論が異なります。「情報に通じた使用者(informed user)」という言葉がキーワードのようです。

 

ポルシェの事例では、権利者であるポルシェ側は、高額な高級リムジンやスポーツカーの分野では高いレベルの注意力を払うので、多少の差異でも十分に新規性や独自性があるという主張のようですが、認められませんでした。

結論としては、両モデルの意匠は、きわめて類似し新規性がなく、また、独自性はないとされています。

古い権利は、1996年から存在するとあります(※ 存続期間が25年であり2021年までですので、玩具メーカーは2021年からは使用できることになります。)。

 

一方、VWの事例では、細かな違いを認定して、独自性があるとして、意匠権が維持されています。

 

今後も自動車産業における意匠の重要性は変わらないが、新モデルでは全体的印象を変え、「既視感」をなくし、独自性を獲得しないといけないとします。

 

コメント

写真は、AIPPI誌で確認いただくしかないのですが、ポルシェは1996年も、25年ぐらいたった今も、同じポルシェです。そもそもが、独自性が高いので、あまり差がないような感じです。

一方、VWのバンは、旧モデルと新モデルの違いは細かなところではありますが、どこにでもあるようなバンです。

 

ポルシェは、そもそもが独自の製品であり、意匠権なりを設定して、登録して保護するに値するデザインなように思います。一方のVWは通常の製品であり、マイナーチェンジで別の意匠として、意匠権が設定されています。

 

価値があるのは、ポルシェだと思いますが、それを意匠では保護できないようです。ポルシェを保護しようとすると、立体商標や不正競争、著作権の保護の検討が必要なようです。