Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

特許から情報・データ?

「特許の歴史から学ぶデジタル新時代の知的財産活動」

知財管理の2020年4月号に、上記のタイトルの論説がありました。日立製作所の知的財産本部長で、日本知的財産協会の理事長の戸田裕二さんの論説です。

ヴェネチアから、イギリス、アメリカ、中国といった特許の歴史を概観して、第1次産業革命から第4次産業革命といった分析を紹介し、現在の第4次産業革命と日本の提唱しているSociety5.0 というものを説明しています。そして、情報・データの時代に言及するという内容です。

 

特許の歴史などは、石井正「歴史の中の特許」晃洋書房(2009)をよく引用されています。

 

産業革命は第1次から第4次まであって、現在進行しているのが、第4次というようです。

  • 第1次産業革命:イギリスを中心としたワットやアークライトの頃
  • 第2次産業革命エジソンやフォードの時代
  • 第3次産業革命:20世紀後半のコンピュータ・エレクトロニクスを用いたオートメーションの発展
  • 第4次産業革命:2016年にダボス会議で使用された言葉で、IotとAIを活用して、デジタルで新たな価値を創出するものをいう。なお、ドイツのIndustrie 4.0、GEのIndustrial Internetなどもこのあたり。第3次産業革命との違いは、第3次ではアナログ情報をデジタルで処理するDigitizationだったのが、第4次ではプロセス全体がDigitalizationと違いがとのこと。

歴史的に、特許制度はプロパテントとアンチパテントを繰り返し、アメリカでは2011年はアンチパテントだったのが、トランプ政権後プロパテントに急旋回しているとあります。

(DigitizationとDigitalizationの違いについて)

https://jp.imt-soft.com/Blogs/News/Digitization-Digitalization-Digital-Transformation-

 

ちなみに、日本が提唱しているのが、Society5.0という考えで、

  • 狩猟社会(Society1.0)
  • 濃厚社会(Society2.0)
  • 工業社会(Society3.0)
  • 情報社会(Society4.0)
  • 新たな社会(超スマート社会)(Society5.0)

というもので、Society5.0では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会をいうとあります。

 

現在の情報・データの問題についても、権利対象や権利範囲を広げると弊害が生じるという歴史から、情報・データを「新たな情報材」と捉えて、特許や著作権での保護を強化すべきとの意見があったものに、筆者らは反対して当事者間で契約で対応すべきと強く主張したとあり、それをベースに不正競争防止法などの法制化が進んでいるとあります。

 

そして、ダーウィンの「生き残ることが出来るのは、変化できる者である。」で締めくくっています。

 

コメント

色々なことが多面的に書かれているので、一度、原文をお読みいただくしかないのですが、保護と利用のバランスということでしょうか。

知財の中でも、情報・データに重要性がシフトしていることも伝わってきました。

 

情報・データは、知的思考の創作物ではないので、所有権的な発想になじまないのでしょうが、しかし、情報やデータを生み出したのは、GAFAでもなく、個々のSNS利用者、コンビニ利用者、建機等の利用者のものであるように思います。

それが、自分のために、あるいは、社会全体のために、使われるなら文句はないのですが、特定の企業に有利に使われるとすると、利益の所属や処理が問題になりそうな感じです。

 

ただし、個人や個々の企業で持っていても、何もできない単なる情報・データが、能力のある人には、価値の源泉になるだけですので、こちらに利益を分配してくれとも言い難い話です。

 

事務管理、不当利得、不法行為債務不履行とあるなかでは、事務管理に近いような感じがします。そうなると、個々に高度な倫理性が必要になり、日本のSociety5.0が出てくる必要があるように思いました。

 

ただし、倫理性の判断は、宗教、政治体制、社会、文化で差がありそうですので、一概に何が正しいということもできないようにも思いますし、欧州とアメリカが違うことを言っているときにどちらに付くべきかは、あるいは日本独自の戦略で行くのかは、大きな選択肢なのだと思いました。

 

なお、「競争(competition)」と「競創(collaboration)」の、「競創」は日立の人が良く使う言葉のようです。マーケティングでいう「共創(Co-Creating)」(顧客と価値を作る)というのとは、概念が違うようです。

 

この論考にある「エジソン・ゲーム」の映画は見に行きたいと思います。

映画『エジソンズ・ゲーム』公式サイト