Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

論文再読(その2)

「小売等役務制度に関する事例紹介と今後の課題について(制度導入から十余年を経て)」(続き)

 

昨日に続き、上記の論文を読んでいます。

 

 5.「BLUE NOTE」事件(知財高判平成23年9月14日):

判例が長めに引用されています。

特定小売等役務と総合小売等役務が別のものであり、類似しないとしたもの判例のようです。

 

6.「MERX」事件(知財高判平成24年1月30日):

医薬品・化学製品の小売等役務と商品としての医薬品・化学製品とは、重複(類似)があることを認め、また、総合小売等役務と個別小売等役務とを分けて需要者の認定をしているようです。

※ 5.も6.も審査基準の考え方に沿ったものです。

 

7.「ベビーモンシュシュ」事件(大阪高判平成25年3月7日):

商品「洋菓子」の商標と、「洋菓子の小売り」役務の商標に、重複(類似)があることをみとめたものです。

※侵害訴訟で、商標法第2条第6項が使われている事例です。

 

8.「ジョイファーム」事件(東京地判平成30年2月14日):

原告が「ジョイファーム」を第35類の「加工食料品の小売又は卸売の業務について行われる顧客に対する便益の提供」で登録し、被告が訴外のケンコーコムのサイトで、「Joyfarm-Odawara」と明記したジャムを販売していたことについて、一般論としては商品と小売等役務間の出所混同のおそれはあるものの、本件については、各種事情から侵害しないとしたもののようです。

※被告の商号が「有限会社ジョイファーム小田原」であり、それを英語にして、有限会社を除いて「Joyfarm-Odawara」とした(商号の使用)という面もあるようです。

 

論考は、クロスサーチの是非、既存の商品商標の不使用該当性、そして、商品の販売行為が論点としています。

 

特に、商品の販売行為についてですが、実務家の中には、小売店における販売行為を小売等役務の概念に含めて考えることができるという意見もあるとしますが、判決には、商品の販売行為を指して小売等役務商標として使用されているとするものはないそうです。

すなわち、裁判所も、商品の販売は、特許庁のいうように商品商標の使用で読むことになっているようです。

 

コメント

例えば、家電、化粧品などの小売り店があるとします。

大きく2つに分かれて、

1)もともとメーカーが出した製品(パッケージ)をそのまま販売する行為と、

2)その小売・卸売りの店舗の看板、陳列、プライスカード、チラシ(広告)、Webサイトに、当該商標を表示する行為です。

 

1)も2)も、双方、権利者はメーカーとなるのだと思いますが、

1)は黙示の許諾で、商品商標の使用となりそうです。

2)は商品商標の範疇なのか、小売等役務商標の範疇なのか、条文だけを見ても判然とはしません。「elle et elles」事件の書きっぷりなどからは、本来は小売等役務商標であることを想定しているようにも読めます。

 

2)の行為主体は、メーカーではなく、メーカーから商標の使用を許可(黙示あるいは明示の許諾=ライセンス)された小売店です。

明示の許諾をするなら、権利番号が必要になることもあり、そのとき商品で読むのか、小売等役務で読むのかは重要です。

 

今回の総合小売等役務が、百貨店やGSMが全ての商品分類で商標権取得はなくて良いとするためのものであるなら、それとの対比で考えて、小売は商品ではなく、小売等役務で完結すると解釈するのが筋が良さそうです。

そうなると、2)の行為を統制しようとするなら、個別小売等役務での商標権取得が必要なように思います。

 

メーカーは、商品商標さえもてば、小売等役務まで禁止権があるので、小売等役務は何もしなくて良いという解釈が現状のように思いますが、それで良いのかなという気はします。

 

メーカーが先に商標を持っているとすると、同じ商標を個別小売等役務で権利取得したとして、その権利は何を保護しているのかよく分かりません。看板も陳列、プライスカード、チラシ(広告)、Webサイトも、商品商標になってしまいます。

個別小売が、流通の新規ブランドを立ち上げたときだけ、意味があるということでしょうか。

 

現行法は、商品と小売等役務クロスサーチを行いましたが、もし、クロスサーチがなければ、メーカーは積極的に個別小売等役務の商標権を取得したはずです。当時、メーカーの権利に基づく既存の秩序に配慮したのかどうか分かりません。

本来は、サービスマークのときの優先登録期間のようなものを設けてきっちりと対応すれば、良かったのかもしれません。

 

さて、アップル社などは、小売(例えば、ヨドバシカメラ)にアップル製品販売コーナーを作るときには、店舗の内装、商品レイアウト、商品知識、従業員の接客など、事細かく契約と研修で詰めます。

日本企業とアップルの差は歴然としています。黙示の許諾のような理解は、ブランドマネジメントではよくありません。

メーカーが、小売にライセンスを与えているから、小売が商標を使えるのだということを明確にするようにしていかないといけないように思います。

 

商品商標と捉えても、小売等役務の商標と捉えても、どちらでも構成は可能ではあるのですが、こうのような契約実務と含めて、考え方をしっかりする事が必要があるように思いました。