Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その4)

商標概念と商標の使用

この部分は、役務商標や、色彩、立体商標という話もありますが、一番、力を入れて書かれているのは、商標は商品又は役務との関係についての概念であるということと、自他商品識別力との関係です。

 

まず、商標は標章を独占するものではなく、標章と標章使用者との間の関係についての概念であるとします。

そして、ある商標とある商品との関係についての機能、識別機能、品質保証機能、広告機能といった標章と商品の関係を保護するのが、商標であるとします。

 

社会通念上の商標の話については、

網野説は、商標法上の商標と、社会通念上の商標を分けて、商標法上の商標には、会社名、等級表示も、「取扱注意」の荷札も、価格もすべて入るとしますが、

これに対して、逐条解説などは、商標法上の商標は自他商品識別性をその本質的機能とするとしています。

小野先生は、逐条解説の説に賛成としていますが、その理由は、商標は標章であり、識別力のない標章はない。商標は、商品又は役務を示すものに使用するものであり、商品を示さないものは商標でないとします。

特別顕著でない数量記号のようなものは、商品を示す徴表ではない。商標法は標章と商品の関係機能の保護にあると解すると、商標法上の商標と社会通念上の商標に乖離がなくなるとします。

 

コメント

小野先生は、標章という言葉に、識別性が本質的に内在しているという考え方です。

商標法の条文の立て方は、標章を「文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」と定義していますが、この限定列挙とは別に、「標章」であるので、「しるし」であって、特別顕著性、識別性がないものはないものは、はじめから除外されるとしています。

こんな解釈もあるのかと、少し驚きました。少し、条文から離れていますね。

 

商標権は、標章と標章使用者との間の関係についてのもので、商標の諸機能を保護するためのものというのは、そうだろうと思います。

ただ、ここでも、識別機能、品質保証機能、広告機能としており、識別機能と出所表示機能は分けていません。

 

大塚説とは違って、小野先生は、識別機能と出所表示機能は同じものをいうと言っているのかもしれません。

 

英語で、日本の商標法3条のdistingtiveness(特別顕著性、識別性)と、商標法4条1項10号、11号、15号のdisctinguish(区別する、識別する)は、同じ系統の言葉ですので、絶対的な識別力と、相対的な他人の商標との識別という差があるだけで、識別機能には本質的な差がないというように考えているのかもしれません。

 

「識別」という日本語は英語の翻訳語だと思いますが、要注意です。

おそらく、商標関係者以外の一般の日本人は、3条と4条1項10号、11号、15号が、同じ「識別」という言葉が出ていると聞いて、そんなややこしいことを止めてくれというと思います。

 

絶対的理由の方の「識別性」は、英国代理人が使う「先天的登録性」や、昔の「特別顕著性」の言葉の方が問題が少なく、

三者の商標との関係では、distinguishを「識別する」ではなく、「区別する」と訳した方が、誤解が生じることが少ないと思います(企業では受け入れられたのですが、特許事務所では、第三者の商標との関係も「識別する」が好まれるようです)。

 

素直な日本語では、単に「識別」というと、先天的登録性を指すのか、第三書の商標との区別をさすのか、不明確です。

 

日本では、4条1項11号や37条で、「類似」という概念を導入しているので、この「識別」という言葉の分かり難さが、「類似」概念に助けられている面があります。

海外でも、出所混同のおそれ(likelyfood of confusion)という言葉がありますので、distinguishが出てくるのはサブ的ではあります。

 

識別性と識別する、本当は、非常に近いのものかもしれません。

審査官は、識別性の判断だけを厳しくみて、克服のためには、使用実績を提出するように要求するようにすれば、混同の有無がそこでチェックできるので、誠実な同時使用の原則で、商標の併存の許容も可能になります。

この英法的な解決方法からすると、「識別性」も「識別する」も、実は同一線上にありますので、小野先生の理解に近くなるのではないでしょうか。