商標法の国際的動向
この部分では、商標に関連する条約を説明しています。
1.商標の国際性:商品は国を超えて流通するので、商標はそもそも国際的
2.パリ条約:1883年締結。加盟国は170ヵ国。全会一致の原則のため、遅れがち
●商標登録条約(Trademark Registration Treaty/TRT)が発行したが、機能していない。日本は未加入。
・TRT(1973年):各国出願の束。各国ごとに商標権の取得を容易・敏速にすることを目的。国際出願は、国際出願日に各国の国内出願。国際事務局は、方式審査ののち国際登録し、公告、指定国に通知。各指定国は15ヶ月以内に承認拒絶の通知。15ヶ月経過時に国際登録の効果が発生し、その効果は、国際登録日にさかのぼる。成立した商標権は各国独立。
●商標法条約(Trademark Law Treaty/TLT)は発行し、日本も加入。平成8年法改正は、主としてTLT対応
・TLT(1989年):各国の商標法の国際的ハーモナイゼーションの推進を目的
3.特別協定:2つのマドリッド協定
①「虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定」
②「標章の国際登録に関するマドリッド協定」
4.多国籍条約:
・汎アメリカン条約
・ベネルックス統一商標法
・欧州共同体商標法:国家の領域を超える統一商標法だが、各国の国内商標権と併存すうので、完全な統一商標法ではない
・模範商標法条項(Ladas弁護士起草)
5.商標法と条約との関係:
・商標法77条で準用する特許法26条(直接効力)
・日本に適用される統一商標条約はない
6.発展途上国の商標の発展
コメント
小野先生は、TRTを丁寧に説明しています。TRTは、マドプロよりも16年も先行していたようです。
マドプロとTRTは、審査期間が18ヶ月か15ヶ月かの違いはありますが、よく似ています。違いがあるとすると、基礎出願(基礎登録)の有無でしょうか。
WIPOのWebサイトでは、マドプロは積極的にPRしていますが、TRTについては、昔の条文がPDF化されている程度です。
https://www.wipo.int/publications/en/details.jsp?id=4094&plang=EN
TRTの解説は、昔のパテントなどにあるようですが、ちょっと入手できませんでした。
少し解説しているものとして、次の論文がありました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/senshoshi1960/24/1/24_1_10/_pdf/-char/ja
TRTは、各国出願の束という点では、PCTに似ているなと思います。
しかし、上記の論文によると、TRTは国際事務局への直接出願とあります。そうなると、受理官庁という概念もないことになります。
どちらにしても、基礎出願や基礎(本国)登録は、そもそも不要なようです。
同論文には、国際登録後3年以内の使用がないと保護されないとあります。これは、欧州の登録後5年以内に使用というにも近いように思いますが、アメリカの使用意思に基づく出願の審査パス後の3年間以内の使用証拠の提出が一番近いでしょか。登録には使用が必須というアメリカの使用主義との調整ではないかと思いました。
非常によくできています。
小野先生の本によると、アメリカの弁護士の反対で、アメリカが推進したのに、アメリカで発行しなかったとあります。非常にもったいないですね。
日本は、15ヶ月審査が無理で参加できなかったそうです。この点は、今も難しい条件かもしれません。
現在、マドプロの議論で、基礎出願を不要にするとか、セントラルアタックを廃止するとかいうような提案が、議論されているようですが、このあたりは、無審査主義国をベースにする欧州の反対があるように聞いています。
基礎出願が不要、少なくともセントラルアタックがなくなれば、マドプロがTRTになれそうですね。
ただ、TRTの登録後3年の使用義務の考え方は魅力的です。不使用でチェックするか、アメリカのように宣誓書や使用証拠を提出されるかの違いはありますが、ストック商標の削減が可能になりそうです。TRTは、どんな制度だったんでしょうか?興味があります。