Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その12)

 

商標法の概念、商標法の体系的地位、不正競争防止法と商標法

 

小野先生は、使用権と禁止権という言葉に整理されています。

江口俊夫先生と同じであり、専用権と禁止権という網野先生とは違うようです。

 

商号の商標化(株式会社東芝東芝商標)と、商標の商号化(商標サントリーの商号化によるサントリー株式会社)という記述があります。(※商標の商号化という言葉は、あまり気にしていませんでしたが、そう言われれば、そのような事例が多いように思います。)

 

商標法の法体系における地位ですが、

  • 創作法と標識法
  • 産業法と文化法
  • 独占法と利益保護法

とあるのですが、3つ目の独占法と利益保護法の記載が重要です。

  1. 独占権の設定をするもの
  2. 単なる排他権の付与若しくは事実上の利益保護にすぎないもの

に分けられるそうですが、特許法や商標法は、1.のもので、パテントアプローチと呼ばれ、

著作権法不正競争防止法は、2.のものであり、コピーライトアプローチと呼ばれ、著作権は排他権の付与にすぎず、不正競争防止法は事実上の利益を保護する法律とあります。

 

そして、商標法はパテントアプローチ、不正競争防止法はコピーライトアプローチとしています。

 

周知表示、著名表示を模倣する行為は不正競争類型により規制されあたかも、独占権が付与されている様相を呈しますが、これは、不正競争行為を禁圧した反射的結果であり、独占権を認めたわけではないとあります。

 

次の「商標法はその手段としての登録により、発展助成機能をもつが、現在は、これがやや軽視されている。」とします。

 

そして、商標法と不正競争防止法の関係は、古くは不正競争防止法は未登録商標の保護だけに適用されるという考え方があったが、現在では重複適用説が判例、通説であるとします。

 

コメント

パテントアプローチや、コピーライトアプローチという言葉は、特許と著作権の中間に入る、意匠の保護の方式として、時々、使われる言葉ですが、商標や不正競争防止法の話で、はじめて聞きました。

 

ここと、次の「商標権の権利行使と不正競争防止法のところは、この本の重要な点です。小野先生は有斐閣の赤本の「不正競争防止法」の著者であり、日本の不正競争防止法の第一人者でしたので、その方が、商標法と不正競争防止法をどう理解していたかは、非常に重要です。

 

商標法の発展助成機能とは、使用を前提とせずに、国家の設権行為により商標権が発生するということを指しており、これが登録主義のメリットという点だろうと思います。

 

登録主義の商標法と、コピーライトアプローチ的な使用主義の不正競争防止法が、重複的に適用され、車の両輪となるという考え方のようです。

 

このバランスは非常に重要であり、商標権の行使が権利濫用になるケースをどう考えるか?、先使用権をどう考えるか?、立法論としてはどうすべきか?、解釈論はどうあるべきか?につがります。

 

不正競争防止法の6条の工業所有権法の権利行使の適用除外の規定を削除したことで、不正競争防止法優位の状態ができており、バランスが崩れていると思います。

 

立法論では、ドイツ商標法4条(2)(3)を参考に、登録だけではなく、先使用によっても「商標権」を認めて行く方法がありますが、当面は解釈論や法運用をどうするかという問題になりそうです。

ドイツ 商標法 2 | 経済産業省 特許庁

 

小野先生は判例の積み重ねで可能ではないかとしていますが、ほとんどの侵害事件で、商標権侵害だけでなく、不正競争防止法違反とセットになっている状態を見ると、商標登録を重視する立場からは、本当にこれで商標制度は良いのか?という気がします。