Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その13)

商標権の権利行使と不正競争防止法

商標権の権利行使について、旧不正競争防止法6条は、商標法による「権利の行使と認めらる行為」には同法は適用されず、従って、旧不正競争防止法1条1項1号・2号の混同行為(及び4条1項ないし3項の行為)に該当する行為も不正競争行為とならないと定めていた。

 

適用除外規定により、商標権の権利行使(差止請求等)が、「権利の行使と認められる」かどうか、絶えず問題になっていた。

 

平成5年法改正で、旧6条が削除・廃止されたことにより、不正競争防止法と商標法に基づく請求権は競合することにあり、両法の関係の解明が一層重要になった。

 

(1)旧6条の立法経緯

国家による設権行為(登録)により成立した権利の行使は保護されるべきであるという、登録重視の理由による。

不正競争防止法が、商標法に優位するようなことがないように規定された。

 

  • 審査を経た権利は、尊重されねばならない
  • 無効又は取消の手続きを経ずに直ちに不正競争防止法により規制を求めることは適当でない

平成5年法改正により、直ちに不正競争防止法により登録商標の権利行使に対しても、規制を求めることができるようになった(しかし、商標法は改正されず、商標法32条の先使用権は、受動的な抗弁権に留まる)。

(※ 先使用を、登録とならび、商標保護の発生理由としているドイツ法との違いの指摘ですね。)

 

(2)削除による影響

旧6条下の議論として、登録商標と周知商標の優先関係が議論になっていた。

 

豊崎説:出願と周知性獲得時期で判断

(※ 使用日なら明確ですが、周知性獲得日はどう判断するのでしょうか?この考え方、立体商標のところで出てきた、ドイツ法の「優先の原則」とよく似ていいます。しかし、当該箇所の説明を読むと、商品形態の通用日と出願日の先後で判断とあります。通用日というのは、周知になった日と同じでしょうか?)

 

●渋谷説:豊崎説は立法論であるとして、解釈論としては、登録商標が違法な登録であるかで、登録商標と周知商標の優先関係を判断。

①4条1項11号の登録阻止事由にあたるとき、

②先使用権を基礎づけるとき、

③その程にも達していないとき、

の3段階に分ける。

(※ これを考えると、

①の場合は、周知商標が強く=登録自体が違法、

②がその次=登録自体は違法ではない=地域的な周知でしょうか?=この場合は優先の先後は一体何になるでしょうか?

③は周知性が弱い=登録商標が有利ということでしょうか?)

 

そして、現在では、混同が生じる場合は、周知表示を有するものが登録商標の使用者に対して、差止請求ができる可能性があるとします。

旧6条の廃止によって、渋谷説の整理が実務的に現実のものになり、先行優先使用問題と地域問題、混同防止不可請求権の問題が、紛争解決のために重要問題になるとします。

 

●「立山」対「越乃立山」事件(「立山」は富山県では日本酒の周知商標と、「越乃立山」の登録商標があっても、周知商標主の不正競争防止法2条1項1号の差止が認められた。最高裁で維持。)

現在は、不正競争防止法優位が固まりつつある。

 

(3)登録主義法制における未登録周知商標使用者の地位

登録主義では、登録を取得した商標権者がその商標を専用する。

しかし、誠実な既使用権者がいるときは、未登録周知商標を勝たせないと衡平でない。

小野先生は、悪意の出願かどうか、双方の使用状況、既使用者の商標が周知か周知でないかで結果が異なるとします。

 

(4)商標権者に対する先使用者の地位

不正競争防止法旧6条の削除前は、権利濫用でない限りは、商標権者がたとえ悪意でも、先使用者に優先すると解されていたが、

旧6条の改正後は、不正競争防止法に違反して登録された抵触する商標は、原則として許されないこととなり、少なくとも、使用商標が使用されていることを知悉しながら商標出願しただけで、権利行使は許されなくなったと解される。

 

比較法的には、旧6条は例外的な規定であるが、不正競争防止法の法改正の答申は、状況は削除前と変わらないというが、そうではなく、両法間の関係調整は、今後の重要課題である。

 

コメント

 

不正競争防止法6条:

 

第一条第一項第一号及第二号並ニ第二項、第一条ノ二第一項、第二項乃第四項、第四条第一項乃至第三項、第四条ノ二並ニ第五条第二号ノ規定ハ特許法、実用新案法、意匠法又ハ商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為ニハ之ヲ適用セズ

 

不正競争防止法の旧第6条の削除は、日本の工業所有権制度、特に商標の法制度を大きく変えてしまったようです。

 

法改正があるまでは、商標権侵害事件は、商標権侵害の請求中心だったのが、その後は、不正競争防止法上の請求と商標権侵害の請求のセットでの請求ばかりです。商標登録制度の地位は、相当、低下したように思います。現時点は、商標登録はライセンスの方に、意味があるような気がします。

 

そして、その後も、出願される商標数は増えていますので、商標の類似範囲はますます狭くなっています。最近では、商標の類似は相当狭くなったので、次は商品・役務の類似範囲を狭めないといけないのではないかという議論もあります。

 

狭い商標登録の保護と、広い不正競争防止法の保護です。

 

以前から、登録主義といいながら、審査実務においては、使用主義的な要素を相当入れていたように思います。例えば、登録可否の判断における商標の類似判断においても、周知商標のような有名商標は、少し有利に扱われるような経験をされた方も多いのではないでしょうか(TVCMで先に有名にしたら、登録の可能性が高くなるなど)。

これは、法律論ではないですが、現実に使用され周知になっている商標があって、特に侵害問題もない場合、登録にしても問題がなく、登録しないことが商標制度の矛盾を露呈するということにもなるので、それなら登録しておこうということだと思います。

 

立法論としては、ドイツ法のように、商標権の発生を周知レベルの商標使用にも認めるというのが良いのではないかと思いました。これは、先使用権は抗弁権ではなく、商標権とみとめようというもので、グローバルな商標担当者の常識にも合致しています。

 

立法論としては、周知商標の使用者に、不正競争防止法上の差止請求しかないとするのではなく、商標法上の請求権を認めることが良いように思います。現状は余りに商標制度が形式的なものとして扱われているように思います。

 

しかし、この議論があまりされているとは思えません。

 

小野先生は、パテントアプローチの商標法と、コピーライトアプローチの不正競争防止法という説明をされていましたが、旧6条の削除に反対をされている訳ではないようです。ただ、両法律間の調整の議論は不足していると言っているようです。

それと、もう一つ、登録主義の商標法が持つ「発展助成機能」が、現在、やや軽視されていると云っています。

 

周知の認定の大変さを考えると、登録主義下の先願主義が、いかに便利な制度であるかは分かります。

しかし、先使用や周知というものは、形式的な登録を凌駕する説得力を持つのも故、テクニカルな登録主義や先願主義を採用するときは、やはりこれらと折り合いをつけないと、商標制度の根本が揺らぐように思いました。