Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その14)

登録主義と使用主義

1.意義

商標権の成立に着目すべき(小野先生の立場)

  • 登録主義:商標権の成立を登録の事実にかからせている場合、すなわち、登録に商標権の設権的効果を与えている場合(ドイツ、日本)
  • 使用主義:商標権の成立を使用の事実に基づいて認める場合(イギリス、米国)

 

もう一つの定義は、手続きに着目(逐条解説、旧豊崎説)

  • 登録主義:商標登録にあたって現実の使用がなくても商標使用の意思のみで、登録を許す制度(イギリス、ドイツ、日本)
  • 使用主義:登録要件として使用の事実を要求する制度(米国)

 

2.沿革

商標使用の保護は、商標登録制度出現前から行われていた。これを使用主義とするなら、使用主義が商標保護の本来の姿

しかし、フランス、イギリスが、使用主義から登録主義へ

19世紀には、後進国であった、ドイツと日本やその他の国は登録主義からスタート

 

3.比較

  • 使用主義は、ほぼ同時に現れた場合、同じ商標への併存登録、併存保護もありえる。しかし、基本は出所混同防止のために、一人にだけ登録を認める。そのとき、最先使用者に優先的地位を与える立場になる
  • 登録主義は、最先出願者に商標権を設定することが通常
  • 長所と短所:権利の安定性は登録主義が勝るが、反道徳的な商標出願行為が避けられない欠点がある。そのため、登録商標の使用強制や未登録周知商標の保護が必要になる

4.登録制度

一般的には、権利抵触の不安定は登録主義では使用主義より少ない。使用主義の欠点は、地域的効力範囲が限定的であることであり、営業地域の拡大に向いていない。そのため、各国は登録主義の弊害防止を図りながら、先願登録主義に向かっている

 

コメント

定義ですが、登録要件と捉えた方が分かりやすいのではないか?と素直に思いました。

米国は登録に設権的効果がないと良く云いますが、登録に基づく商標権と、コモンローに基づく商標権は、まったく別物という説明も聞きます。

そうなると、米国においても、登録によって権利が発生すると考えられていることになり、使用が登録の要件となっているだけです。

まあ、これは、どちらの考え方もあるのではないかなと思います。

 

気になるのは、ドイツやイギリスなどの欧州各国は、CTM(EUTM)加入のために、似た商標制度になりましたが、

絶対的拒絶理由の審査だけとなり、相対的拒絶理由は当事者に任せている点です。当事者自治・私的自治・処分権主義で、商標権は公権ではなく、あくまで私権という立場です。これは、併存登録も、当事者が了解しているなら問題ないことを意味します。

 

この状態で、権利が安定していると言って良いのかなという気はします。登録後ですが、異議申立ての機会を与えて、チャンスは与えていますので、その機会に異議をしなかった人は、権利の上に眠るものであり、法的保護を受けるに値しないということでしょうか。

 

欧州の商標管理をちゃんと行うには、それなりの人員とコストをかけ必要があります。

日本国内だけのことを考えると、国が丁寧な審査を行う方が、人員もコストも少なくて済むのですが、一歩世界に出ると、そこは当事者自治の世界です。

 

米国は使用主義ですし、アジア各国も古いイギリス法の使用主義の影響を受け継いでいる国が多いという側面もあり、同意書制度もあります。

 

人員とコストを国が分担するのがよいか、当事者が分担するのがよいか、どちらが良いかですね。

グローバル企業の商標担当は、使用主義や欧州の制度が良いという人が多く、国内の商標担当者は日本の制度が良いという人が多いのですが、将来を考えると、日本の制度は、アメリカと欧州の間を取るような制度になるような気がしています。

 

特にインターネットで、商標の使用事実が簡単に調べることができることの衝撃は大きく、商標制度に変更を迫っていると思います。