識別性(各号の前まで)
標章が需要者に、何人かの業務にかかる商品又は役務であることを認識させる力のことを、「識別力」という。
現行法は、旧法の「特別顕著」という用語を避け、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であること」がわかるものという用語法に変更した。
しかし、識別性は、パリ条約6条の5第B項2の「識別性」(distinctiveness)と同じ意味に解さなければならない。
差止請求をするためには、侵害追及を受ける者が、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられることが必要である。
他方、不使用取消においては、識別標識としての使用に限定する必要はないという見解がある(※ 竹田先生の説を紹介して反対している)。
旧法の通説では、「顕著」とは、一般人の注意をひくということで、「特別顕著」とはそれが著しいことをいった。
旧法時代、特別顕著性の意義は、外観構成説、自他商品識別力説、独占適応性とされたが、現行法では、自他商品識別説と独占適応性の双方が入って、3条は構成されている。
本来、特別顕著性は、商標の構成要件であるが、審査の便宜のために登録要件としてしまった。
旧法の商標の同一とは、要部を共通するものを言ったが、現行法では付記的部分まで同一ではじめて同一になる。これにより、標章のどの部分が商標かという議論が不要になる。
また、特別顕著性を構成要件としないので、権利不要求制度を廃止した。
そして、出願された標章は、特別顕著性を考慮せず、まず、3条を検討し、次いで4条を検討することになる(江口説)。
この方法で、審査は便利になったが、商標の効力範囲、侵害事件に問題を移行しただけのことになった。
特別顕著性は、商標の構成要件であり、現行法の形式的登録主義は、商標法全体のあらゆるところで無理が生じる。
また、特別顕著性は、識別力に限定したような規定になっているが、元号の「平成」は識別力があり、これを拒絶するのは既に「公益性」(独占適応性)を加味してる。
3条1項6号は、自他商品識別力の総括規定とされるが、3条1項3号は、公益的不登録理由という立法論もある(豊崎説)。
現行法の解釈としては、特別顕著性=識別性の概念に、自他商品識別力と公益性を併せ持つと解釈することになる(同旨、網野説)。
コメント
そうだなと思ったのは、識別性をパリ条約から導いているところでしょうか。distinctivenessと同義と解釈しなければいけないという点です。
海外の商標調査報告書を見ていると、記述的商標(descriptive)は、識別性(distinctiveness)が欠如していることの一つの例というよう書き方ですので、3条1項3号の記述的商標が、識別性のないものの具体例に挙がっているのは、海外の認識と同じであり、違和感はありません。
そういう意味では、日本でも、海外でも、識別性は、独占適応性を含んだもので、商標として本質的に機能しないものを、経験則上列挙して、それに該当しないことをもって、識別性があるという考え方で良いようです。
登録要件として存在することが問題ではなく、やはり商標の定義に識別性を入れなったことが問題ということだろうと思います。
「distinctiveness」ですが、先天的登録性(Inherent distinctiveness)のように、「登録性」という訳語でも良いと思いますが、一般的には「特別顕著性」でしょうか。
その中に、自他商品識別力のないものや独占適応性に欠けるものが入っているという理解です。青本もその考え方に近い記述に読めます。
「識別性」は、自他商品識別力のことなので、独占適応性が入らず、用語としては、「特別顕著性」の方が、良いような気がします。
不使用取消取消のときに、商標的使用が必要という点では、形式的使用で良いという網野説に批判的(明確には書いていないのですが、竹田説の紹介でそう読めます。)で、識別性には自他商品識別力説だけではなく、独占適応性が入っている点では、網野説に賛成です。
特許庁出身者は、商標審査の便宜に拘るところがあります。一方、小野先生は、バランスが取れていて、商標関係者の通説だろうと思いました。
特別顕著性が商標の構成要素であった旧法の商標の同一とは、要部の同一をいう(現行法では類似になります)とか、特別顕著性を登録要件にして、商標を形式的定義にしたために、権利不要求制度がなくなったとか、本書を読んで、はじめて理解できた点がありました。
立法論として、特別顕著性を商標の構成要件とすべきという話はよく聞きますが、商標の同一や、権利不要求制度にも影響する大きな問題だったんですね。