Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その19)

氏・名称

「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標は商標登録を受けることができない(4号)。

 

  • 識別性がないため、個人に独占権を与えるべきではない
  • 氏名は、多くは識別性がある
  • 名称とは、法人の表示をいう
  • ありふれたかどうかは、「50音別電話帳」にかなりの数を発見できるものをいう(商標審査基準=現在の審査基準では、この説明は無くなっています)

 

商号は、ありふれた氏、業種名、著名な地理的名称に、「商店」「商会」「屋」「家」「堂」「舎」「洋行」「協会」「研究所」「製作所」「会」「研究会」「合名会社」「合資会社」「有限会社」「株式会社」「K.K.」「CO.」「Co., Ltd.」「Ltd.」を結合してなる種おひょうも、原則として本号にいうありふれた名称に該当する。

ただし、行政区画名と業種名とを結合してなる会社名については、普通に採択されうる名称である場合であっても、他に同一のものが現存しないと認められるときは、この限りではないとされる(例:日本タイプライター、日本生命保険相互会社)(商標審査基準)。

 

しかし、小野先生は、このただし書きについては、「使用による識別力がある場合」に、限定すべきという意見です。

 

理由としては、全国的に効力が及ぶ商標権を用いて、同一又は類似の商号の商標としての使用や登録を防ごうとすることは、商標法と商法との関係上問題があるためとします。

類似商号の審査の廃止により、同一市町村で、同一営業でも商号は登記可能である。

普通に採択される名称でも、他に同一のものが現存しない場合には、商標登録になるという審査基準は問題であり、使用によって識別力が強化されたものだけにすべきとします。

 

コメント

現在の審査基準では、電話帳云々の記載がカットされています。これは、電話帳の役割が変化してしまったためでしょうか。

 

小野先生が問題にしている、「行政区画名+業種名+株式会社」のタイプですが、「大阪ガス株式会社」、「東京電力株式会社」ですね。

これらの会社は、有力な企業が多いので、それに配慮した審査基準なのかもしれませんが、「山田ガス株式会社」「鈴木エレベーター株式会社」が識別性がないのと基本は同じだろうと思います。

しかし、「大阪ガス株式会社」のタイプは、使用による顕著性を有する会社が多いということなんでしょうか。

あるいは、地名(行政区画名)には特殊な特定する力があるということでしょうか?

 

さて、この本の冒頭の総論に、「商標と商号」というタイトルで、商号と商標の関係は、現在では商号商標も商標登録を認められるようになっていること、商号と商標は、排他的に峻別する必要はなく、重複的な保護をすれば良いという説明がありました。

 

商法が改正され、類似商号の審査が廃止されたのは、事前チェックから事後チェックの時代になったという点と、不正競争防止法で問題のある商号は排除されるということが判例で確立してきたという面だろうと思います。

類似商号の審査の廃止の結果、多少は会社設立がスピードアップしたりしたのだと思います。

一方、商号権の侵害事件が、増加したという話を聞きません。もしかすると、類似商号の審査は、はじめから不要だったのではないかとさえ思われます。

商標でも、相対的拒絶理由の審査は、本当に必要なのか?という疑問がでてくる理由の一つです。

 

商号選択は自由になった(事後チェックだけになった)。しかし、商号商標は全国に権利が及ぶ。商標登録の困難度が低いと、折角の商号選択の自由が、商標登録のために台無しになる。よって、商号商標の識別性のレベルを上げて、使用による顕著性を獲得したものだけにするを貫徹すべきということだと思います。そもそも、なぜ、この「大阪ガス株式会社」タイプだけ緩くするのかよく分からないので、識別性の判断レベルを上げることは、理解できます。