Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

五輪エンブレムとパロディ

3名の議論の比較

2020年7月14日の朝日新聞に、日本外国特派員協会の五輪エンブレムのパロディをめぐる論点について、3名の識者の議論が紹介されていました。

  • グレゴリー・スターさん(編集者、会報誌の編集担当):

著作権侵害にあたる。選手への配慮も欠き、遺憾」とのクレームに対して、デザインの取下げと謝罪をした特派員協会に抗議して、デザイナーと共に辞任。表現の自由のために闘わなかったと批判

パロディは、考えさせる役割。民主主義にとって重要。「空気を読め」は表現の自由に反する

個人でどう思うのか、考えて欲しい

  • 横山久芳さん(学習大学教授、著作権法の専門家):

日本の著作権法にパロディに関する明確な規定がないことが原因

米国著作権法フェアユースはOKという規定。フランスにはパロディを明確に認める規定。現行日本法でも、引用の規定(32条)を根拠に、パロディを認める学説、判例が出てきている

五輪選手を不快な思いにさせるという指摘あり。しかし、特定の個人の人格を傷つけるものではない。エンブレム関連商品が売れなくなるものでもない。つまり「引用」であり、「合法」とみなせる

日本には「本歌取り」や漫画の二次創作を黙認する風土あり。「批評」という毒をこめたパロディは、元の作者の許可は難しいので、法が支援すべき

1990年代に比べ、若い人はちょっとした皮肉、風刺といった毒に敏感で、冷める

今回の五輪エンブレムにコロナをかけ合わせたパロディは、悪くないけど、日本をバカにしている感じで、傷つく日本人もいる

さじ加減がセンス

 

コメント

3つの意見が並ぶと面白いですね。是非、朝日新聞でご確認ください。編集者の意見は、表現の自由の考え方から理解しやすいのです。

まさか、こんなに簡単に日本外国特派員協会が折れるとは思ってもみなかったので、今回の取下げ、謝罪は驚きました。

 

政治的圧力があっても屈することは無いと思いますので、外国特派員協会が、「空気を読んだ」んだろうと思います。日本に長く駐在すると、外国人も空気を読むようになってしまうんでしょうか。

 

さて、最近、横山教授の言うように、32条の引用にあたるという法解釈をよく聞きます。ただ、やはり正面から合法とするには、著作権法に明文の規定が欲しいところです。

上に赤や青で記載した、横山教授の発言は、法律的な見解ですね。個人と全体の空気は、別ものであるというが、仕分けできていて、非常に法律的だなと思いました。

 

いいチャンスだと思うので、今回の議論も踏まえて、法改正に繋がらないものかなと思いましたが、世論は今回のことをどう思っているのかというと、清水ミチコさんのいうような「空気」は、大会組織委員会側にあるような気がします。

 

法的には、編集者や横山教授のいうとおりであるが、空気が許さないようです。

今回のコロナ禍で自粛警察の問題が出て、五人組の監視組織を想起されるという意見がありますが、確かに、そんな時代になってきているような気がします。

著作権法という本来、個人の権益を守るための法律が、権力を守るために使われるというのは、何か奇妙な感じはします。

 

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