Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その20)

識別力のない商標(6号)

小野先生の新・商標法概説を、続けて読んでいます。

3条1項6号は、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」は、商標登録を受けることができないとあります。

 

  • 厳格な文理解釈上は、「識別力がない商標のみ」を規定するようであるが、本号は「1項の総括規定」であり、独占適応性のない商標を含む
  • 公益上特定人に独占させることが不適当と認めらるような商標も本号に該当
  • 例として、「平成」などの元号の商標
  • ちなみに、識別力(特別顕著性)の概念は、それ自体に公益性の概念を深く内包

コメント

3条1項の記述的商標は、本来の識別性ではなく、独占適応性であるということからすると、3条1項1号~5号の総括規定である6号も、識別性のみならず、独占適応性を含むと理解するのは素直ですが、文理解釈を離れてしまいます。

文理解釈を重視すると、この条文のままで良いのかなと思ってしまいます。

本来なら法改正をして、双方が読めるように、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と「特定人に商標の使用を独占させることが不適切な商標」を6号の中に並列で列挙すべきではないかと思いました。

解釈論では、文言に、必要に応じて独占適応性を入れて読むということのようです。

 

しかし、そうなると、豊崎説のように、独占適応性の3条1項3号を4条に移すべきという話も出てきます。

そうすると、3条2項のことは、別に説明が必要になります。3条2項は、日本の商標法には珍しく、使用実態を見る規定ですので、4条の条項に適用とはしづらいのかなと思ったりしました。

 

現在の審査基準は15版です。本書で引用されているのは10版ですので、この数年で審査基準が毎年ほど変わっていることが分かります。

審査基準も、ここまで改訂が多くなると、~版という管理ではなく、別の管理にしていった方が良いのかもしれません。

 

この数年で6号の審査基準で一番変わったのは、スローガンです。13版からスローガンであって、商標若しくは役務の広告宣伝、又は企業理念・経営方針等であっても、

  1. 造語である
  2. 出願人が一定期間使用して、
  • 三者が商品・役務の宣伝広告に使用していない
  • 三者が企業理念・経営方針を表すものとして使用していない

この場合は、登録になるとなっています。

 

従来から、スローガンの商標が商標登録されている事例は多く、審査基準と実際の運用の齟齬があったところを、現状に合わせたというところでしょうか。

この部分、日本の商標法の運用には珍しく、現実の使用実態を見ています。

3条は、全体に使用状態を見るものを集めたということでしょうか?