使用による識別性
使用による識別性(特別顕著性)については、3条1項3号から5号までに該当する商標であっても、「使用をさせた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる」に至った商標は、商標登録を受けることができるとします。
条件は、
- 相当長い期間
- 相当範囲の地方で
- 多量の商品又は役務に使用された事実が必要
ただし、集中的に広告されると、識別力が生じることがあります。
ハウスマークとの関係では、当該標章自体の使用が必要とあり、
という判例の紹介があります。
識別力(特別顕著性)の観念には公共性が内包されるので、識別力のない商標は特定人に独占させることは不適当、他方、不正競争を防止するには、あまり厳格に解すべきでなく、両者の調整は難しいとします。
最近は、
また、3条2項の適用を受けることができるのは、同項の適用を受けることができる商品又は役務に限られますが、実際に使用された商品又は役務と異なった商品役務でも、出所表示機能を有すると認められるときは、3条2項該当性は否定されないとあります(Kasasaki事件)。
コメント
普通名称や慣用商標は3条2項の適用がないと、条文上明記があります。
新・商標法概説では、審査基準が、紹介されているのですが、新しい商標との関係で、審査基準が改正されているところです。
3条2項適用では、使用証拠を出しますので、日本の商標法にしては、珍しく使用主義的な運用となります。
サービスマークの登録制度の導入時にも使用証拠を集めましたし、昔の更新や不使用取消審判などもそうですが、使用証拠の提出をするときは、商標らしい仕事をやっているなという感じがします。
立体商標の登録について、3条2項の適用を得るため使用証拠を集める必要があった点や、その他の新しい商標で、同じく使用証拠を集める必要があった点など、最近は使用証拠を集める必要性が多くなってきているような気がします。
以前は、更新時の使用証拠の提出もありました。更新の使用証拠については、大昔の白黒写真の使用証拠が提出されたり、倉庫に残っている製品の写真を撮影して使用証拠が提出されたりしている面はあったようです。しかし、私の属していた企業ではそんなことはしていませんでした。極めて真面目に使用証拠を集めていたなと思います。使用証拠はないけれども、確保したい商標は再出願していました。
更新の使用証拠の審査ですが、不使用取消審判では、相手方当事者がいますので、奇妙な証拠なら反論があります。しかし、更新で、大量の使用証拠をチェックするのは、特許庁の審査官にとっては負担だったのかもしれません。
更新の使用証拠の提出の要求は、商標法条約でなくなりましたが、日本の運用を考えた場合、米国のように使用宣誓という形式で残しておくべきだったのかもしれません。
昭和34年法の設計思想の根幹は、登録時は先使用主義ではなく、先願主義をとるが、使用義務との関係で、10年後には一律チェックを入れるということで、権利の安定性と商標の持つ公益性の調整を図っていたように思います。
また、更新チェックの審査官の負担を減らすためには、虚偽の使用証拠を提出した場合には、登録を無効にするとか、罰則が必要だったのではないかと思います。
Fraud(詐欺)による権利の無効という概念は、日本では聞きませんが、判例でもっと認めれば良かったのかもしれません。
最近、メキシコやアルゼンチンで、メンテナンスとしての使用宣誓の復活の動きがあり、登録主義国では一つの方法論です。
米国は、登録後の抜き打ちオーディットが始りましたが、最近、抜き打ちではなく、全件見ているのか?と思うほど指摘が多いように思います。
ちなみに、欧州は、登録時は登録主義ですが、不使用商標では後願排除のための異議申立もできませんし、権利行使さえできない国が多いようです。欧州は、登録時のみ登録主義で、登録後は使用主義と理解するのが良いのではないでしょうか。
こう考えると、米国、フィリピン、メキシコ、アルゼンチンのように使用宣誓書に進むのか、欧州のように異議や権利行使を制限するのか、あるいは判例で不使用商標の権利行使を制限するのか、このあたりが必要なんだろうと思います。
欧州のような相対的拒絶理由の無審査主義が嫌なら、米国流になるのではないでしょうか。