周知商標(10号)
周知商標:
需要者の間に広く認識されている商標
規定の趣旨:
周知商標という既存商標の使用状態の私益保護説と、出所混同防止のための公益的な規定という説があり、現在は私益保護説が有力。
しかし、立法理由はむしろ公益説を中心とする折衷説。私益保護と同時に、消費者保護のため混同防止も考慮されていると解するのが妥当ではないか。
周知の状態は、善意で招来されたことが必要。不正競争目的によって、周知の状態が招来された場合は保護に値しないと解する。
意義:
未登録商標で登録を排除する効果まで認めるものであり、全国の主要商圏で相当程度周知か、狭くとも隣県数件の相当範囲での周知が必要。
- 防護の「広く認識されている」=著名
- 先使用権(32条)の「広く認識されている」=10号よりも緩やかに(理由:商標の先使用状態の利益保護のため)
商標、商品・役務は、類似まで:商品・役務の類似範囲を超えたものは、15号か不正競争防止法3条1項(差止請求)へ。
コメント
立法者が出所混同防止を、公益的理由と捉えていたという点が面白いところでしょうか。現在は、出所混同防止は私益的なものということがほとんどだろうと思います。
10条が11条(先願)よりも、先に来ているのは、どういうことなのかなと思ってしまいます。
昭和34年当時は、高度経済成長の前期であり、今よりも商標登録の敷居は高かったと思いますし、江戸時代から続くような老舗が商標登録を取得せずに、商品を販売していることも多かったように思います。
そう考えると、未登録周知商標は、今よりは多く、その保護は切実な問題だったのではないかと思います。
その後、商標登録は比較的身近なものになっています。今となっては、商標登録を取得して事業を行うことが原則ということはいえるかなと思います。
さて、本書ではよくパリ条約が説明されているのですが、周知商標の保護(6条の2)について言及がなかったなと思いました。
英語では周知商標と著名商標の区別がないようです。通常、Well-known trademarkは周知商標で、著名商標はFamous trademarkと訳しますが、英語のWell-knownは、日本でいう周知商標だけではなく、著名商標も入っています。
日本の著名商標は、防護標章の影響もあり、周知商標の有名なもので、商品・役務の類似の範囲を超えて出所混同を生じる範囲を、著名と区別しています。
しかし、海外では、出所混同の生じるおそれがある範囲が類似の範囲となることが多いので、日本的な意味での類似の整理は意味を持ちません。
日本の著名商標の保護も、いつまで存続するのかなという思いはあります。防護標章登録制度は、著名商標の類似商標の登録はできません。
著名商標の保護を一から考えると、防護標章登録制度に頼るのではなく、類似概念自体を、一般的出所混同から具体的出所混同に変更すべきとなるのですが、そうなると、4条1項15号の11号への吸収合併や、特許庁の運用の大幅な変更が必要なので、手を付けられないというが現状だと思います。
国際的に、過去の制度である、防護標章登録制度を維持しないといけないところが、日本の商標制度の欠点であり、ここを解決しないと日本法は凄いでしょと、海外に胸を張って言えない状態になっています。