Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その34)

商標権の主体ー共有

商標権の共有は、無体物であるので、共有ではなく準共有となり、別段の定めがない限り民放の共有の規定が適用される(民264条)。

 

持分の多寡にかかわらず、共有者の各人が商標を全面的に使用できる。これは、客体の無体性からの結果でもある。

全面的に使用できるが、公衆を誤らせる結果とならず、かつ、公共の利益に反しないことを、併存的使用の前提条件とすべきである(パリ条約5条C(3))。

 

持分の割合は、譲渡や使用許諾の対価の配分に関係するが、登録料の納付割合、権利維持費用の負担割合の面にも働くと解すべきである。

持分は、相等しいものと推定される(民250条)。

 

コメント

特許では共同開発が多いので、共有が非常に多いのですが、商標では共有は極少数派です。

商標管理の考え方では、アメリカ流に、商標を使用許諾するには、品質管理が前提となり、一定の品質を保つには、中央集権的に一ヵ所が品質を決定する必要があるため、商標法や民法で認められている、商標の共有をそのまま適用すると問題になる場合が多く、商標管理では、商標は共有に適さず、基本は一人の権利者とすべきと言われています。

もし、共有とするときは、別段の定めで、品質管理を予め約束しておくことや、継続的に話し合いをすることなどが必要になります。この意味で、パリ条約5条C(3)は重要な条文だと思います。

 

商標の共有が出てきたときは、必ずパリ条約5条C(3)を考えるようにしなければなりません。

 

後藤晴男先生のパリ条約講和を見ると、この5条C(3)の制定経緯がありました。本当は1934年のロンドン改正会議で、アメリカが、親会社と子会社、提携会社等の関係会社などに、使用許諾を認めても良いという規定を提案したそうです。

しかし、当時、日本などは使用許諾制度を認めていない国があり、反対したので、妥協として生まれたのが、この規定ということです。

パリ条約には、共有だけのルールで、使用許諾のことが触れられていないのは、このためだそうです。

 

昭和34年法の施行前にも、産業界では、親会社が子会社に商標を使用させたいときがあり、その場合は、共有を活用していました。

会社の古い記録を見ていると、重要なハウスマークが共有になっていることがあったのですが、それはこのためです。

昭和34年法で使用許諾制度が認められてからは、共有は原則ありません。すべて使用許諾に切り替えられました。

 

現行法は、使用許諾については、アメリカのように品質管理の要請がある訳ではないのですが、商標管理の考え方としては、アメリカ流にするしかありません。品質管理のない無節操なライセンスをすることなど、ありえません。

法律の規定(品質管理については何も規定がない)と、現実(品質管理が最重要と考える)の乖離が大きいところだと思います。

ここについては、アメリカ法では多少議論があるようですが、日本の法律論文でも、ほとんど検討がされていないのではないでしょうか。