商標権の効力ー積極的効力ー使用権
この本では、使用権(25条)と禁止権(37条)という言葉を使っています。この用語は、専用権と禁止権という網野先生の用語とは違いますが、一般的なものだろうと思います。
<使用権の話>
- 使用権は、他人の妨害を受けずに商標を使用する権利
- 不正競争防止法旧6条では、商標権の権利行使は不正競争防止法違反にならないとしていた
- 十分に議論がされずに、商標権優位を定めた旧不正競争防止法旧6条が廃止
- 商標権の権利の推定的効力を認める考え方と、まったく商標法と不正競争防止法を平等に対置する考え方が併存
- 法的安定性を欠く状態
- 法改正の答申では、廃止しても現状は変わらないと述べていたことから、単に不正競争防止法に違反する事実の主張立証では足りず、権利濫用までは要求されなくても、商標使用を否定するに足る事実を示すべき
<禁止権の話>
- 禁止権は、工業所有権の本質的な排他性・独占性を裏付けるためのもの
- 類似範囲について争いが生じる。特に最高裁判決(小僧寿し事件)が類似の範囲と具体的混同の範囲とをまったく一致させてしまったので、禁止権の範囲が浮動的・相対的になった
- 禁止権の範囲内に予め類似商標を登録しておく「連合商標制度」が廃止されたことは、いっそう禁止権の範囲の判断を困難にした
コメント
使用権の説明でも、不正競争防止法旧6条の削除の話が出てきました。
登録主義を守るなら、不正競争防止法旧6条が必要だったのだと思います。これを廃止すると、商標法と不正競争防止法は、どうしても対等に置かれることになり、対等に置かれると現実の出所混同の有無の方が、類似よりも上に来るのは当然で、小僧寿し事件のように、類似と混同が同じになってくると思います。
弁理士業界では、登録要件の類似(4条1項11号)と、権利侵害の類似(37号)は別ものである。登録要件は一般的出所混同で、権利侵害は具体的出所混同であると、声高に主張されることが多いのですが、本書では類似の説明を、あえて効力のところに置いているように、4条1項11号と37条の類似は同じものと捉えています。
おそらく、今から不正競争防止法旧6条の復活は無理です。そうなると、ますます、不正競争防止法優位の状態になり、商標法の存在理由は、権利侵害排除のための証拠の一つ、また、ライセンスのためのものという位置づけになります。
訴訟条件に近いものになるので、登録があることが重要であり、可能なものはできるだけ何でも登録していくという力が働きます。相対審査を無審査主義にする流れです。
類似判断が甘くなったとか聞きますが、大本は、このあたりに原因があるのだろうと思います。
本書では、使用権の説明で、不正競争防止法違反程度では使用はできるとしていますが、果たしてそうなのかなと思いました。
商標権侵害と不正競争防止法違反が相対して、相殺のようなことになるような気がします。
もう一つ、連合商標を積極的に評価している点もユニークです。防護標章を評価する声は聞いたことがありますが、実務家で連合商標を評価する声はあまり聞いたことがありませんでした。
そもそもブランディングからいうと、似た商標を使用すること自体NGです。ブランド=商標は、それ自体の個性が重要なのであって、似た商標を使うと、価値が希釈化され、毀損されます。過去、ファミリーマークといって、Kodak「Koda●●」を、「Fujifilm」が「fuji●●」を使用するということもありましたが、現在は、ほとんどそのような例はありません。
連合商標は、本質的に課題がある制度だったのではないかと思います。