Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その37)

商品若しくは役務の同一又は類似

商標は、商品又は役務の関係概念であり、商品又は役務単独、標章単独では何ら意味がなく、保護の対象でもない。

登録商標の保護は、商品又は役務と商標の関係的機能(いわゆるグッドウィル)の保護、すなわち、商標の指示する出所表示機能にある。

よって、「商品若しくは役務」の「同一又は類似」は、基本概念である。

 

古くは、「同一」概念だけだったが、同一を狭く解釈すると不正競争者を利する結果になるので、「商品の類似」の概念が導入された。

商品又は役務の「類似」は、商標の著名度などの特別関係を離れて、同一商標を両商品又は役務に付して、商品又は役務の混同を生じるおそれがあるかどうかで判断するが、社会通念によるものであり、時代により、商品又は役務の類似判断は異なってくる。

 

判例は、古くは具体的混同ではなく、上のように抽象的な混同で判断するというものが多かったが、最近の最高裁判例小僧寿し事件)などは、商標の著名度などの特別関係も考慮して、具体的な出所混同が生じるかどうかで類似を判断する。

学説は、具体的な出所混同を考慮する説と、抽象的な出所混同を考慮する説に分かれる。また、豊崎先生などは、商標との関係を考慮しない、商品属性説に立つ。

 

実務は、特許庁の「類似商品・役務審査基準」と、最高裁判所の具体的な出所混同で割れている。

役務の類似は、不正競争防止法判例が参考になる。

 

類似商品・役務審査基準は、判断の統一と審査の迅速に資しているが、同審査基準には例外もあると記載がある。しかし、解釈的にはこの基準で審査・審判されているのであり、訴訟においてもこの情況を重視すべきである。

 

コメント

昨年、マレーシアの商標法改正(※ 古い英国法系の商標法が、最近の英法系諸国の主流なものになった)があり、商標権の効力が同一だけだったのが、類似範囲に拡大したという話がありました。

欧州でも類似概念があるので、類似というのは普遍的なものかと思っていたのですが、そうでも無いようです。

確かに、同一だけでも、同一性をどう見るかによって、類似と同じような効果を出すことができますので、同一性の幅と類似というのは同じようなものです。

 

さて、小野先生は、類似商品・役務審査基準は、同基準自体が絶対的なものではないと記載していることも紹介しつつ、裁判でも参考にすべしとしています。

一方、役務では不正競争防止法判例を尊重すべきとしています。

 

以前、商標課長経験者の方に聞いたのですが、商品の日本分類(及びその類似)を決めるときは、産業分類(正確な名称は失念しました)に準拠しているので、相当、現実の商取引を前提に作られたが、役務は国際分類でやってきたので、そのような体系がない。ここが役務と商品の違いということを言っておられました。

また、現在、WIPOでも商品・役務概念の体系化の作業がされており、指定商品の調査をしていると、上位概念で括られたりしていいますが、この作業に期待すると言っておられました。

(※ WIPOは、商品・役務の類似は、体系化はするが、それは類似概念を定めたものではなく、各国に任されているとします。)

 

一方、日本分類に基づく、上位概念記載は、問題があります。同じような、類似群コード(短冊)を使っている中国、台湾、韓国とも、どこも、上位概念(例えば、電気通信機械器具、電子応用機械器具)では、出願できません。単品指定です。

また、今まで、クラスヘディングを認めていた欧州でも、具体的商品に書き換えるように指導がありました。クラスヘディングは、その言葉のまま解釈するという話で、クラスヘディングが不明確という考えです。

 

今後は、WIPOを中心とした商品・役務の体系化と、単品指定(上位概念は認めない)というのが、世の中の流れになりそうです。

 

国際分類の採用時に、類似商品・役務審査基準の廃止が議論になったことがあります。あと一歩のところまで行きました。

日本分類では、多くの類に類似商品が散らばることが懸念されたのと、類似商品・役務審査基準の硬直性が課題であり、一度、御破算にしてやり直すという議論です。それでも旧基準として尊重されるので、実務は回るという意見でした。これは非常に参考になる意見です。

 

日本の商標管理の課題の一つに、商品・役務単位で、商標管理ができていないという点があります。

企業は自社の商品・役務を、最小単位で把握する努力が必要です。