商標の同一は又は類似(2)
昨日のコメントです。
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小野先生は、類似をまとめて効力のところで記載し、「混同のおそれ」で判断することが、確定した最高裁判例としています。
残った問題が、出願時は不使用で、従来の経験則による一般的抽象的な類似判断がされるのに対して、審判の途中までに使用されると具体的混同になるので、この差をどうするかという課題提起をしています。
本書では、不使用商標でも保護の対象としている昭和15年の大審院の判例が紹介されています。(判例が古すぎて、ネットでは、内容が確認できませんでした。)
混同の問題の延長の類似と、不使用商標の保護では、一見、論理が飛んでいますが、この判決はどういう判決なんでしょうか?
不使用商標にも後願排除効果があるという判決でしょうか。審査や審判で、引用商標の不使用を立証すれば、引用商標から外れるというのが、ここでいう不使用の抗弁だと読みました。権利行使の不使用の抗弁の可能性もありますが、文脈からは審査の話です。
小野先生は、登録主義や特許庁の実務、過去の不正競争防止法旧6条の適用除外があったころにも、シンパシーをもっておられますが、本書を全体として読むと、方向性はドイツ商標法を向いていると記載しているように読めます。
ドイツ商標法では、権利行使時には商標の使用が必要ですが、審査時は相対的拒絶理由は異議待ち審査で、異議申立をするには使用が必要ですので、不使用の抗弁を、権利行使だけでなく、審査でも認めているのと同じです。
不使用の商標ではそもそも裁判をする人はいないので、不使用の裁判自体がほとんど発生しません。審査・審判で主張すべき論点だろうと理解しました。
重複登録を気にするなら、中国のように、引用商標は不使用取消でどんどん取り消すのも方法ですが、重複登録を気にしないなら、審査や審判での不使用の抗弁で、引例を回避できるなら、一般常識にかないます。
商法の類似商号の審査廃止は、商標にも影響があるように思います。
商品の類似、商標の類似を、役所が判断するというのは、審査主義国、特に英国商標法由来の考え方ですが、母法である英国法が、すでに、相対的拒絶理由を審査しなくなったという影響は大きいと思います。相対的拒絶理由、特に類似範囲を、役所が当事者の意向を無視して、勝手に判断するのは、違うような感じがします。
この相対的拒絶理由を異議待ち審査にすることとセットで導入が必要なのが、同意書制度です。
そして、同意書制度を円滑に運用するためにも、同意書とセットで、不使用の抗弁を認めることになると思います。
現在でも、不使用商標を根拠にして、損害賠償請求できないことが多いですが、不使用では差止請求できないという法改正などがあると、不使用商標だから同意書を出しましょうとなります。
ここまでが、商標法改正案のワンセットです。
裁判を待つか、法改正を待つか分かりませんが、現在の登録主義の根拠が、小野先生の教科書以外出てこない、古い判例であるというのは、ちょっとどうかなと思いました。
もし、仮に、母法のドイツ法、英国法にならい、異議待ち審査へ移行することに特許庁が躊躇する、あるいは、日本人が望まない場合は、
100歩譲って、アメリカのように相対的拒絶理由の審査は残すけれども、類似=混同の危険で判断する、
すなわち、実際はズバリ同一でなければ、大体登録になるというアメリカ流にするかしかないように思います(商品や商標の類似範囲が非常に狭い)。
これは、今の状況に近いように思います。
そうなると問題は商品と役務です。
自分の権利は自分で守るという権利意識が、日本の場合、欧州ほど育っていないことからすると、相対的拒絶理由の審査を、簡単にやめられないようにも思いますので、そうなると、審査はアメリカ流を目指すしかなくなります。
現在の商標制度は、既存企業を有利に扱いすぎです。商標法が自由闊達な起業を阻害しているような気さえします。
これは、大企業のみならず、中小企業も有利に扱っているいう意味であり、権利の上に眠る者が利益を受けている、すなわち、経済活動を不当に害しているという状態です。
この不使用の抗弁は、平成15年(2003年)12月1日の商標制度小委員会で議論されたようですが、日の目を見ていません。色んな意見があるようですが、松尾先生の意見に注目しました。裁判と行政の乖離をこのまま認めるのは問題というのは、その通りです。
企業は意見をまとめられなかったのでしょう。このあたりは、知財協会の意見ではなく、委員の見識を問うしかありません。
平成18年(2006年)2月の特許庁のまとめ「商標制度の在り方」では、次のようになっています。
これを読んでいると、小野先生が言いたかったのは、法改正は無理だ、裁判で決着をだせということでしょうか。そういう意味で、審査や侵害時の「不使用の抗弁」のあたりが、日本の商標制度の基本的な論点であるようです。
防護標章は日本の商標制度の盲腸として、類似が無くなるまで、放置されるんだろうと思います。その意味では、反対されたソニーの方の思い通りに動いていると思います。
著名商標の保護は、具体的混同で見るしかないと思います。
参考までに、最終的な「商標制度の在り方(論点整理)」は下記です。