Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その40)

権利の限界からくる制限

商標権の効力と表示使用とを調整し、公益上1個人のみに独占させることが適当でない商標の自由使用を確保する。この条理的限界からくる制限が次の3つである。

  1. 26条
  2. 商標権者の権利行使の制限(39条、特104条の3第1項第2項)
  3. 権利の濫用

特に、2つ目のものは、「単に形式権」に対しては侵害はないという理論である。

これは、普通名称化して、除斥期間が経過した商標登録の権利行使の制限で、条理で効力を制限するものと、法定のものがある。

法定のものは、キルビー事件最高裁判決により示されたもので、同最高裁判決は無効原因の存在することが明らかな商標権の権利行使も射程におさめる。

それを、無効理由を特許無効の権利行使阻止の抗弁として主張できるようにしたものが、39条である。

 

商標法では、ポパイマフラー事件最高裁判決が知的財産権について初めて権利濫用の法理を商標権行使案件に適用した。

商標権行使の権利濫用については、ポパイ事件とキルビー事件の2つのアプローチがある。ポパイ事件は、商標権の無効を前提としたものではない点が異なる。

よって、今後もポパイ事件の権利濫用の抗弁が成立する余地はある。

 

コメント

商標権で以前からあった権利濫用と、キルビー事件や法改正を受けた権利行使の制限と、2つのものがあるということです。

これを読んでいて思ったのですが、無効理由のある権利行使への抗弁ですが、無効理由に限定する必要があるのかという点です。

 

不使用は、商標権者の使用義務に反しており、不使用商標は空権といいます。

無効と取消は、日本では言葉を分けますが、同じ用語で整理している国は多いように思います。Invalidationの一つに、Non-use Cancellationも入っています。

アメリカは、不使用は権利放棄と考えます。

 

日本では、無効は遡及効、取消は将来効などと昔は言いましたが、付与後異議になって異議の取消の場合は遡及効(43条の3第3項)となり、無効と取消の言葉の違いは、大きなものではなく、実質は同じものということができるのではないでしょうか。

 

1つの可能性としては、不使用を無効の一種と、外国のように考え、39条の抗弁をして、商標権侵害不成立というのは、立論の筋としてもありだなと思いました。

 

侵害訴訟に限定されますので、不使用で侵害訴訟を提起することは、実際上あまりないということから、あまり可能性はないのかもしれませんが、これは面白い視点ではないかなと思いました。

 

このアイディアは、まともに取り組むことができたら、十分に論文になりますね。

無効ではないので、文理解釈上、39条の適用は無理があり、法改正が必要ですが、この論点、法改正担当者は分かっていた論点だと思います。