Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その46)

侵害とみなす行為

37条各号の行為があった場合は、権利侵害の事実の立証を必要としない。登録商標の信用を害するおそれのある行為を権利侵害とみなして、商標権の保護を強化したもの。

一般に本来の侵害が直接侵害、本号の侵害は間接侵害、みなし侵害という。

37条1号と2号~8号は、性格がやや異なる。

 

民事的救済のみならず、刑事的救済も請求できる。民事上の責任は生じるけれども、刑事上の責任を生じないとする説は誤り。

 

37条1号:いわゆる禁止権の範囲であるといわれる。2号以下が、本来的侵害の予備的行為色彩をもつのに対して、性質は異なるとする。

これを、立法的にまずいとするのは豊崎説。

侵害擬制規定にすぎず禁止権規定でないとするのは、兼子=染野。

 

商標には、特許のような「利用」はない。

商標権者は使用権の範囲ではその商標の使用を妨げられない。

しかし、禁止権の範囲では「けりあい現象」が生じることがある(※ その場合、双方が使用できない)。

 

8号:予備的行為の予備的行為である。

 

コメント

以前から、4条1項11号などと比べて不思議だったのですが、なぜ37号1号を、25条に書かずに、37条1号という「みなし侵害」に入れているのだろうと思っていました。

 

商標は同一、商品(役務)同一の、ダブルアイデンティティの範囲は、使用もできるし、権利行使もできますが、

「類似範囲」は、使用ができるといっても、事実上の使用ができるだけですし(「けりあい現象」が生じれば使用もできない)、そのような範囲に権利行使を認める必要性がどれだけあるかという話になります。

 

「類似」=「混同を生じる範囲」という、最近の小僧寿し判決以降の判例の考え方でいけば、基本的には類似範囲(37条1号)の範囲まで25条に記載して、類似に権利侵害を認めても良いと思いますが、

以前の類似は、一般的抽象的出所混同という考え方では、実際に混同を生じていない場合があるにも拘わらず、一般的抽象的に権利侵害とするのであり、37条の「みなし侵害規定」に置いておくのが、筋が良かったのだろうと思います。

 

昭和34年法の立法者に、古い英国法のダブルアイデンティティの影響が残っていたのかどうかは不明ですが、形としては、ダブルアイデンティの範囲(25条)と、類似範囲(37条1号)ではまったく違う扱いをしていることになります。

 

古い英国法が残っていた、昨年までのマレーシア法では、商標権侵害は同一の範囲だけでした。あとは、パッシングオフなどで処理していたようです。

 

類似を「混同の範囲」とすると、類似は可変概念になり、著名商標には広い類似範囲があり、未使用商標の類似は狭いもの(同一性の範囲程度のものでしょうか)に限定されます。

 

欧州や米国でも類似という概念がありますが、彼らの類似は、一定の幅があり、結局は混同をするかどうかですので、同じ類似という言葉が出ていても、従来の日本の類似とは別ものです。

 

判例の類似=混同の立場にたつなら、37条1号は25条に入れ込んでしまう必要があると思います。商標法改正をするなら、大きな論点ですね。

現在は、WTOを中心とした国際貿易促進の動きの反動の時期ですが、国内市場を重視するという立場では、一般的抽象的混同の類似概念が良いという反動がきそうな感じもします。