Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その51)

商標権の移転と更新と放棄

移転:

新法は営業と分離した移転を認めているが、これは、旧法当時から実務的には営業譲渡証を添付すると認めらており、実質審査もなかった。

移転よりも、使用許諾の無制約の方が、問題かもしれない。

 

ちなみに、ドイツは、1995年に業務と分離した移転を認めている(※ 案外最近です。CTM対応でしょうか。)

 

商標法条約のために、移転の際の日刊新聞紙への公告の義務付けはなくなった(※ 何回かやったことがあるのを思い出しました。)

 

存続期間の更新:

指定商品又は役務の一部の更新はできないので、事前に放棄が必要。

商標法条約のために、更新時の4条(公益的不登録理由の審査)と使用(旧19条2項ただし書き2号)のチェックはなくなった。

 

そのため、商標登録無効審判の無効理由に、後発的な公益的不登録理由は入ったが、普通名称化した商標が入っていない。

 

放棄:

商標権は財産権であるので放棄できる。指定商品又は指定役務ごとに商標権の一部放棄も可能。

 

ここまでで、本書の三分の二ですね。

 

コメント

商標法条約はWIPOの準備した条約だと思いますが、サービスマークの更新審査を認めてもらったりしているようですので、日本も一定の発言権があったようです。

内容的には、更新時の実態審査の廃止などが大きいですが、これは欧州諸国の要望でしょうか。

 

弁理士さんの中には、更新の使用証拠は、」古い製品の写真を撮ってだしていたので、更新時の使用証拠の要求は意味がないという人も多いようです。

特許庁の感覚でも、ある程度の比率で実際に使っていないものが、写真に撮られて更新されており、それが嫌だったのでないかと想像します。

また、大陸法では、宣誓書の文化がないので、アメリカのような宣誓書の採用は、少しハードルが高いのかもしれません。

ハンコ文化とサインの文化の違い、エンパワメントの浸透度合いなどもありますので、今なら、宣誓書の採用は可能性があるかもしれません。

 

私のいた企業では、本当に使っていない商標は更新はせずに、再出願をしていました。ただし、ある係争中(数十年の係争)の先行権利者が、数十年間同じ白黒写真を出していたようです。不使用取消をかけたら潰せるのですが、結局、不使用取消請求をしなかったように思います。

 

当時は業界や知財協会各社に不使用取消をかけてはならないという不文律があり、使用取消をするなら、電話して使用許諾をもらうように指導されていました。

上述の権利者は、米国の大会社なのですが、こちら側に、もめごとを避けたいという気持ちがあったということでしょうか。戦っておけばよかったなと思います。

 

アメリカは、更新と使用宣誓は別の手続きということで、更新時にも使用チェックをしています。この使用チェックですが、フィリピンはアメリカとほぼ同じとして、最近、メキシコやアルゼンチンで復活しています。使用チェックをすることで、不使用商標の排除が可能になります。

 

ちなみに、アメリカは不使用は放棄と考えます。

 

また、アメリカは、従来は区分で一つの証拠でも更新できましたが、今は、全ての商品について、チェックがされます。抜き打ちのランダムなオーディットとしていますが、最近は非常に多いので、実際上は、不使用商品は放棄する運用になってきました。使用義務が強化されています。

 

欧州は、使用していないと、異議もできないし、権利行使ができないので、実質的に空権となるので、これも使用義務が強いといえます。

 

日本や中国、台湾、韓国が似た制度ですが、中国や台湾は同意書がありますし、中国など不使用取消がやたら多いように思います。日本も、どんどん不使用取消で争うなら、まだ良いのだろうと思いますが、なぜかあまり不使用取消をしません。上述の喧嘩をしない知財協会の風土がまだ残っているなら、それは問題です。

 

商標管理は、行政に守ってもらうものではなく、自分の力で権利範囲を広げる活動ですので、海外の活動は、法制度の違いはあっても、自分で努力しているように思います。

 

日本人も、昔は出願だけは好きだったのですが、それは中国には遠く及ぼない状態になってしまいました。しかし、今の時代、沢山、出願するというのもナンセンスです。

 

不使用取消では、やはり半年かかりますので、ここが無理があります。不使用取消が一ヶ月で判断できるなら、不使用取消の一本足打法でも良いですが、半年かかるので、無理です。

やはり、使用していない商標の差止請求の制限と同意書制度の導入は、現状の閉そく感を打ち破る解ではないかと思います。

 

学者は実務をしらないので仕方ないし、特許庁弁理士業界は権益保護があるとしても、なぜ企業が主張をしないのか、不思議でなりません。

知財協会のパワーが低下しているように思いますが、それはグローバル企業の力が弱くなり、国内派が優位になってきているからでしょうか?