Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

「京都芸術大学」の地裁判決

地裁は原告敗訴

2020年8月28日の日経(夕刊)に、京都造形芸術大学が校名を「京都芸術大学」に変更することに関して、京都市立芸術大学が、名称使用の差止を止めた訴訟の大阪地裁判決があった旨の記事がありました。

「京都芸術大」に校名変更OK 大阪地裁、使用認める :日本経済新聞

  • 判決は請求棄却
  • 理由は、「京都」「芸術」「大学」の各部分は大学の名称としてはいずれもありふれたもの
  • 識別機能は、設置主体を示す「市立」にある
  • 「市立」の有無で見た目や呼び名が異なることは明らか
  • 市民が「類似のものとして受け取る恐れがあるとはいえない」

 

コメント

既に、京都造形芸術大学は、2020年4月に「京都芸術大学」に名称変更しているようです。その差止を求めた裁判です。

京都芸術大学

 

さて判決ですが、

不競法事件で、2条1項1号と2号が問題になっています。

 

判例を読みました。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/685/089685_hanrei.pdf

大阪地裁の判決では、丁寧に原告の主張する表示が、周知・著名に該当するかどうかを、証拠をベースに個別に判断しています。

 

 

原告の主張は、次の表示が周知・著名ということです。

  1. 京都市立芸術大学
  2. 京都芸術大学
  3. 京都芸大
  4. 京芸
  5. Kyoto City University of Arts

判決では、個別にこの周知や著名が判示されています。

 

まず、著名性ですが、原告の提出した証拠では、「京都市立芸術大学」という基本的な表示について著名とは認定されていません。

芸術分野に関心を持つ者の裾野は広く、原告の提出した証拠はその一部にとどまるとされています。

ここで、その他の表示については論じるまでもなく、2号は適用は排除されています。

 

次に、周知性ですが、判決では、1と5のメインの表示の周知性は認めていますが、2、3、4の周知性は認めていません。

 

原告は1と5をメインに使用しており、ときどき3の表示があるという状態のようです。今回問題になっている2は、あまり使用例がないようです。

 

反対に、被告の「京都造形芸術大学」も、これまでも、2、3、4として、言及されることがあったようです。

 

これでは、証拠から見る限り、2、3、4は、あまり関係ないということなります。

特に、今回問題になっている2が周知表示ではないですし、原告がその表示とする2、3、4が、実は被告の表示でもあるという点は、原告の主張を一層苦しくしています。

 

そして、判決は新聞記事にあるように、「市立」の有無が識別を可能にする点としています。

 

なお、判決では、本件についての周知性の認定基準は、「京都府及びその近府県に居住する者一般(いずれの芸術分野にも関心のないものを除く。)」であるとしています。

※判断主体について、

原告は、需要者は、受験生及びその保護者にとどめず、少なくとも京都府及びその近隣府県に居住するもの一般という主張です。

被告は、受験生及びその保護者であり、公演、展示会等の催事の来場者である市民一般は需要者にならないとしています。大学受験生は、「市立」か「私立」か、全て理解して願書を出しているという主張です。

ここは原告の主張が採用されています。

 

地域性は、狭く解釈する方が、原告に有利になることが多いので、原告と被告の主張がひっくり返っているように思います。なお、被告の受験者は通信を入れると近畿(30%)よりも関東(40%強)が多いという状態になるようです。

判断者は、一般人の方が類似と判断しやすいということも言えると思いますが、「周知性」という点については、純粋な芸術関係者>受験生・保護者>一般人の芸術分野に関心のある人>一般人の芸術分野に関心のない人という感じで、周知性が変わってきそうです。

 

本地裁判決は控訴されているようです。

 

さて、

原告としては、実際の名称である「京都市立芸術大学」や、その他の各「表示」ではなく、より抽象的なレベルの、総体として「京都芸術大学」を観念して、それとの混同のおそれを判断して欲しいと思っているだろうなと思いますが、判決を見る限りは、そのような抽象的なレベルの議論はされていません。あくまで、具体的各「表示」についての判断を積み重ねて、不正競争防止法違反ではないとしています。

 

地裁判決を見る限り、問題の「京都芸術大学」という名称は、従来の原告被告双方の表示の、周知の範囲に入らない、誰もが自由に使用できる部分だったということになります。

 

文部科学省への届け出にせよ、商標出願にせよ、早いもの勝ちなので、京都市立芸術大学が「京都芸術大学」という表示についての主張をしたいなら、先に、「市立」を抜いて、自らが「京都芸術大学」と使用すべきでした。

この名称は、何やら国立大学っぽい名称ですが、都道府県名称+大学の私立もありますす、公立でも、私立でもつけることの可能な名称です。

 

校名変更までしなくても、少なくとも、通称の名称をそうすべきです。しかし、そうなると、ブランド表示の一貫性の問題もありますし、設置主体の京都市との関係があったと想像します。この問題は起こるべくして起こったものと思いました。

 

これを防ぐには、京都市立芸術大学は、「京都芸術大学」を商標として権利化しておく方法もあったと思います。商標出願一日違いで、京都市立芸術大学側が遅れています。対応が後手後手に回っています。

 

なお、時間がなかったのか、費用がかかりすぎるのか、被告とも特にアンケート調査も提出していないようです。

今回の判決に従うなら、京都府や近府県の、受験生・保護者や、芸術に関心のある一般人を、有意な数(各々300名など)抽出して、「京都芸術大学」という名称を聞いたとき、既存の京都市立芸術大学と混同を生じるかどうかのアンケートをして、混同を生じるという人が一定数(20%とか)いる場合は、混同を生じるおそれありするなど判断することが、可能性としてはあるように思います。

原告としては、2020年4月に、すでに動きだした校名を、今さら変更されたいなら、この程度の努力はすべきではないでしょうか。

 

実際に困るのは、タクシーの運転手などだろうと思いますが、今回の騒動で京都の人は「市立」か「私立」か確認するようになったと思います。

そのうち、地元では、両者について、分かりやすい略称ができて、区別ができるようになるんだろうなと思います。

 

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