Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その54)

一商標一出願の原則、一出願多区分制、指定商品(役務)の指定、商品(役務)の一部放棄

 

重要な点は、

平成3年の法改正で国際分類が採用され、それまで認めらてきた、「その他本類に属する商品」というような「全類指定」や包括概念が認められなくなり、省令別表の中概念、小概念での指定となった点と、

平成8年の法改正で、旧分類を書き換えることになり、全て国際分類となった点です。

 

特に、包括概念による指定商品指定は、

  • 国際的には例外
  • 不合理な縄張りとして多くの弊害
  • 社会の商標制度に対する批判も、包括概念を認める実務からくる場合が多かった
  • 全類指定しておいて、実際に使用するのは一つの商品など
  • 不必要に第三者の商標出願を妨げる
  • 使用許諾制度があるため、商標権者に許諾料を請求される
  • 平成3年には、「その他本類に属する商品(役務)」という記載方法を許さないとした

とあります。

 

他に、重要と思ったのは、

  • 無効審判や取消審判は、指定商品・役務ごとに請求できる
  • 指定商品(役務)の取下げができる期間について、高裁レベルで2つの考え(いつでもできると、補正可能期間に限る)があり、最高裁が指定商品の一部放棄は手続き補正書の提出期間後はできないとした

という点でしょうか。

 

コメント

国際分類採用時に議論されていることが、今も、議論になっています。

最近の商標の類似は、判例を見て判断している審査官、審判官が多く、審査基準では類似になるものが、非類似と判断されることが多く、実務の予測可能性を害するという意見があります。

ただ、この議論には、商標審査基準の通りに運用すると、採用できる商標がすくなくなり、商標の類似範囲を細かく設定することで、使用できる商標を確保しなければならないという考えがあるのではないかと言われています。

 

標章(マーク)の類似を狭くする方法以外で、商標採択の余地を広げるもう一つの方法が、商品(役務)の類似範囲を細かくしたり、商品(役務)の指定方法を変えるべきではないかという意見です。

 

現在、商品(役務)の類似範囲は、類似群コードの短冊の概念ですので、昭和の時代と同じです。

類似群コードを採用する中国などに比べても、一つの類似群が大きすぎるので、これを分割しても良いと思います。

 

もう一つが、「電気通信機械器具」「電子応用機械器具」など、大概念表示が認めらているのを、中国、台湾、韓国のように、この主の包括表示を認めず、小概念の「テレビ」「ラジオ」しか認めないとする考えです。

 

商標の類似を細かく見るというのが、行きつくところまで行ったので、次は商品(役務)を細かくするしかないという考えです。

 

元々、ハウスマークとペットネームがあり、ハウスマークは広い商品(役務)で権利が必要ですが、ペットネームは狭い商品(役務)で十分であり、この調整という面もあります。

 

平成3年の約30年前の議論が、同じことを議論していたことに驚きますが、そのとき、類似群コードをなくしたり(あるところまで議論がありました)、全類指定だけではなく上位概念指定もなくしたり(中国、台湾、韓国は無くしました)しておけばよかったのですが、今も当時も、既得権益のある人が反対をするという構図だと思います。

 

小野先生の議論にはないのですが、商品(役務)の小概念での把握は、商品(役務)の重要性を、嫌でもクローズアップさせます。従来、商標のみに限定されていた実務が、やっと商品(役務)に同じ比重で重要性を置くことになります。

商標専門家は、標章(マーク)の類似とともに、商品(役務)についての専門家になるということを意味します。

 

書き換えは良くやったなと思いますし、今の類似商品役務審査基準は、だんだん具体的な商品(役務)を中心としたものになっているので、次は、類似群の分割と、上位概念の廃止でしょうね。

 

一見、上位概念の廃止は簡単そうですが、書き換えをやる必要があるので、これも大変です。

類似群コードの廃止や再分割と、上位概念の廃止は、セットで検討が必要になりそうです。