先願主義
我が国は登録主義を採用し、商標権者の商標使用の法的安定を確保している。
2以上の商標出願があるとき、最先の出願人に登録をするのが、先願主義であり、我が国は「先願登録主義」をとっている。
ここで、単一の商標だけしか登録されないことが不正競争防止、品質保証の観点で重要であり、4条1項11号がある。
明治21年の商標条例は、先願主義であるが、これは未使用商標権者同士は先願主義であり、先使用があれば、それが優先された(先使用登録主義)。
使用主義制度では、先に出願したものよりも、先に使用をした者に商標登録を受けさせるが、この先使用の決定が困難である。先願主義は争いが生じにくく、法的安定性が高い。
半面、法的安定は具体的妥当性に欠けるときがあり、そのため、(未登録)周知商標の保護がある。
単なる悪意の出願人は、単純にこれを排除できないが、「害意」のある商標出願人の排除が課題であり、欧米諸国にくらべて、この点、法政策的・解釈的に遅れているという批判がある。
先願違反は、4条1項11号があるので拒絶理由ではないが、無効理由である。
また、先願の確定を待たずに、拒絶理由を出せるようになっている(15条の3)。
同日出願のくじは、商標特有のもので、技術の利用自由という側面がなく、同時登録を避けると次の出願人が登録を取得してしまい不合理だからである。
コメント
明治21年の商標条例が使用主義的な発想だったことが分かります。今話題ミャンマーのこれまでの制度がそうでしたが、そもそも登録制度のない商標法は非常に少ないものです。
アメリカの使用意思に基づく出願では、登録の条件として使用宣誓(使用実績)の確認がありますが、審査自体は既に先願主義的です。ほぼ、先願先登録が後願を排除しています。先使用が事案を決することはあまりありません。
それはさておき、気になったのが、現在、世界の主流になりつつある欧州の登録制度との関係です。
EUTMでは、相対的拒絶理由は、当事者の異議待ち審査です。当事者が異議をしなければ、同一・類似の商標が併存登録されます。
EUIPOから同一や極類似については、権利者に異議の督促のような通知が来ますが、権利者が不使用なら費用をかけて異議をするまでもないので、その場合、重複登録が生じます。
重複登録が生じた場合、第三者との関係では、権利者が当該商標を使用していることが前提にはなりますが、双方権利行使が可能です。
重複登録を是とするか、重複登録は絶対にNGとするか、二者択一ですが、欧州は是としており、日本やアメリカ(昔のイギリス)は非としています。
一物一権主義を貫き、綺麗な状態を目指すか、まあまあで良いとするかの分かれ目です。
EUTMには、欧州統合の影響があります。技術標準の話ですが、例えば、ヘルメットに関して、各国で標準があったようですが、その仕様自体を標準化することは、各国の既存の標準との利害が対立して、統一が難しかったようです。しかし、仕様標準ではなく、求めるべき性能という標準を作り、仕様は色々あっても良いとすると、従来の各国毎の標準をひっくり返すことなく、整合性がとれるようになったようです。そして、性能標準を満たしたものは、相互認証により、欧州域内を自由に流通できるようになります。
この考え方の延長に、EUTMの当事者が問題ないとしている商標は併存しても問題ないという思想を感じます。
欧州の国は、アメリカの州のようなものですので、州登録が沢山あるようなものであり、その上に自由流通を目指した、制度をつくるならこうせざるを得なかったのはわかります。
この視点で見ると、小野先生が良いと主張される単一商標の原則、一物一権主義が、少し色あせて見えます。
小野先生は、サービスマーク登録制度導入前のサービスマークや商号など、不正競争防止法という混沌とした世界で生きてこられたので、一物一権主義の商標登録制度が理想的に見えていたのかもしれません。