Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その56)

先願主義の例外(博覧会出品、出願分割、出願変更、優先権、要旨変更新出願)

 

これらは、先願主義の例外とまとめられています。

  • 博覧会出品物は、商標出願はその出品又は出展の時にしたものとみなされる(9条1項)
  • 分割による新たな商標登録出願は、元の出願時にしたものとみなされる(10条2項)
  • 出願変更したときは、出願日の遡及効があり旧出願は取下げられる(10条2項、11条5項、12条3項、65条3項)
  • 優先権主張を伴う後の出願は、その間に行われたtがの先出願より不利な取扱いは受けない。すなわち、それより前にされた出願よりも優先される(パリ条約4条A、C(1))
  • 補正却下後の新出願は、一定の手続きを踏むと、手続き補正書提出ときに出願したものとみなされる(17条の2第1項、意17条の3)

論点的なものは、

  • 査定系の審決取消訴訟継続中に分割出願した時に、分割のできる時期と補正のできる時期のズレ(商標法条約の関係で、分割は審決取消訴訟継続中も可能だが、一方の補正は審査審判再審継続中のみのまま)から、2つの高裁判例が割れていたが、最判平成17件7月14日の「eAccess事件」で決着がつき、審決取消訴訟継続中の補正は遡及効がないとしたものでしょうか。
  • この場合、分割による新規出願はできているので、出願人に不利はないという判断があるそうです。

コメント

●まず、博覧会出品です。

あまり考えたことは無かったのですが、博覧会出品の保護は、ある意味、先使用主義的です。

出品後6ヶ月という限定はありますが、使用はしているが、出願はどの国にも、一切していません。もし、これを意匠のようにマーケティングリサーチまで認めるとすると、相当、面白くなるのではないかと思います。6ヶ月限定の使用主義の採用です。

マーケティングリサーチですが、意匠で認めて、商標で認めないというのはどういうことでしょうか?意匠図形を書くのは大変で、商標見本を作成するのは、簡単という判断でしょうか?

ここは、深堀すると、大きなテーマになるかもしれません。

 

●分割は、マークの分割はできないとサラリと記載がありますが、もう少し、柔軟にできても良いように思います。

 

●分割出願ですが、大阪の元弁理士の対応の法改正については、この本には記載がありません。彼の行為は、許されないのでしょうが、現行法の欠点をさらけ出す効果はあります。

 

中国との比較をしてみたいと思います。

日本では、分割出願は新出願と捉え、ただ、分割時に旧出願を補正して問題のない部分だけにして、問題のある部分を新出願として、結論として、問題のない部分を早期に権利化するというものです。

一方、中国では、反対に、問題のあるものを旧出願に置いておき、問題のないものを新出願として、新出願に元の出願番号にプラスして「A」の番号をつけて(中国は出願番号と登録番号が同じ=EUTMと同じ方法)、分割した新出願をサッサと登録してしまうという運用です。

日中の運用が、まったく違うので面食らう点ですが、中国の場合は、問題のないものは即登録になり、問題のある部分はそのまま即拒絶になり、審判を請求しないと拒絶確定です。

審査段階で実質的な意見書の提出をするのではなく、そのような不服は審判で初めて聞くということで、不服申立の機会は少ないのですが、スピードアップが図れます。

日中とも問題のない部分が即登録になるのは同じですが、問題のある部分が日本では新出願なのに対して、その問題のある部分が中国では旧出願として残ります。

日本の場合は、分割出願は新出願ですので、方式から始まって、別の審査官が審査することも多いと思います。

一方、中国は、即拒絶で、審判です。この点、スピードアップが図れているように思います。

 

中国で多区分出願をすると、一部に問題の商品があると、全体が拒絶され、分割出願をしないといけないのですが、例えば、3区分の1区分に問題がある場合、当該問題のある1区分の一部のために、3区分の分割新出願をしないといけなくなり、無駄があるので、はじめから1区分ごとに出願した方がよいと代理人がいいます。

商標によっては、いつも拒絶を受けるとは限らないので、将来の便宜のために多区分出願をしても良いのですが、一区分ごとの出願を良いとする傾向にあるようです。

 

さて、小野先生が紹介している、最高裁判例ですが、中国的に処理すると、問題のあるものが残り、問題のないものが分割出願で新出願です。審決取消訴訟で行った、新出願はその後速やかに登録になるとして、問題になっている部分は、旧出願にありますですので、これが審理されないことは無いと思います。

この平成17年(2005年)の判決は、日本的な立法ミスなのか、当初から最高裁のようなことを想定していたのか不明です。

 

全体に分割については、中国は発想の転換をしているように思えます。そのため、相当に審査のスピードアップを図っているように思います。

 

中国は分割が数が多いのですが、欧州や米国の分割はあまり経験がないのですが、どうなんでしょうか。