Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その57)

出願公開制度

特許庁長官は、商標登録出願があったときは、出願公開をしなければならない(12条の2第1項)。国際登録も、国内登録も同じ。

商標登録出願人は、①商標登録出願をした後に、②当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、③その警告後商標権の設定の登録前に当該出願にかかる指定商品又は指定役務について当該出願にかかる商標の使用をした者に対し、④当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求することができる(13条の2第1項)。この金銭的請求権は、商標権の設定の登録があった後でなければ、行使することができない(13条の2第2項)。

 

公開制度は、マドリッドプロトコールへの加盟に関係する。ヨーロッパ各国は、商標寄託制度から出発した使用主義の商標法制度を包含するものであった。国際登録日から、指定国の官庁に直接出願されていた場合と同一の効果が生じ、

拒絶通報期間に拒絶する旨の通報をしない場合には、国際登録日から、その商標がその指定国の官庁に登録されていた場合と同一の効果が生じる(議定書4条(1)(a))。

この条約上の義務の履行のためには、出願公開と金銭的請求権の創設が必要であった。

使用主義の方向にさらに一歩近づいたといえる。

 

また、商標の早期保護のためという理由もある。平成11年(1999年)法改正では、商標・サービスのライフサイクルが短縮し、登録前に顧客吸引力等が発生するケースが増加し、出願段階から一定の保護が必要という議論があった。特に、商標は模倣が容易であり、商標の信用力の毀損に対して、周知性を要求する不正競争防止法よりも迅速な保護が得られる制度の構築の必要性が高いとした。

 

金銭的請求権については、

マドプロ導入時の比較法的検討で、イギリスと中国は、自国における登録後に損害賠償請求のみで、ドイツとフランスは、国際登録日から損害賠償請求+差止請求を認めていた。

差止請求は、登録後の権利行使とすることとの整合性、仮に認めた場合に設定登録されなかったときの法的処理の困難性から、認めなった。

 

損害賠償請求ではなく、金銭的請求としたが、これは商標権は設定登録により初めて発生するという権利という現行法の基本を維持したもの。

金銭的請求権は、商標権の設定登録を停止条件、商標出願の失効を解除条件とする特別法(商標法)のみなし特殊不法行為であり、商標法、特許法民法等の規定が準用される。

 

コメント

特許庁の説明会には参加して聞いてはいたと思いますが、小野先生の本を読んでいて少しづつ記憶が蘇ってきました。

 

出願公開制度が導入され、金銭的請求権が導入されたということですが、出願公開はその前から公開速報で公開されていたので特に違和感はなく、金銭的請求権は特許の補償金請求権があったので、これもそれほど違和感がなかった記憶があります。

 

自国での登録までにの間に、差止を認める無審査のドイツ・フランスと、差止を認めないイギリス・中国という対比ですが、イギリスもこの後に相対的拒絶理由は異議待ち審査に移行した(2007年10月)ので、平成11年法改正(1999年)のときは古いイギリス法を参照しているはずです。

イギリス法は、このあたりはどうなったのでしょうか。イギリスもドイツ、フランスに合わせていてもおかしくないように思います。そもそも、絶対的拒絶理由の審査だけですので、早いですし、相対的拒絶理由の異議がなければ登録自体が早いので、あまり時間的なことは問題にならないのかもしれません。

 

最近、欧州出願するときに、EUTMの他に英国出願をすることが多くなっています。絶対的拒絶理由ですが、EUTMとは違う拒絶がきます。EUTMよりも厳しいかなという感じがします。

 

さて、この金銭的請求権ですが、実施の講師は自国での登録後ということですので、特に遠慮なく使えるように思いますので、係争案件では使っているということになるんでしょうね。

損害賠償請求の規定が多数準用されているので、損害賠償請求としても良かったのですが、そうしなかったのは、現行法の設定登録後に商標権が発生するという体系を維持することが理由でしょうか。