Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その58)

審査主義と無審査主義、登録異議申立制度

 

審査主義と無審査主義については、審査主義が妥当であるとして、各国法の比較をしています。

 

出願公告制度の廃止の理由は、マドプロの条件を満たすのが大変だったことと、早期権利付与の要請があり、特許法に合わせて、付与後異議になり、情報提供が重要になったとあります。

 

付与後異議になった異議申立については、付与前異議の時代からその法的性質については、争いがあったとあります。

  1. 単なる情報提供(立法者意思、特許庁の立場)
  2. 審査官が情報を得て、審査の完全と適正をはかろうとするもの(最高裁
  3. 申立人の利益を擁護するためのもの
  4. 強く公法上の異議申立権(高裁、地裁判例

実務上は、情報提供とされ、出願速報(※現在は出願公開)と情報提供が重要とあります。

 

異議には、無効審判同様に審判の規定が準用されているが、必ず行わないといけないのは、登録異議申立書の副本の商標権者への送付のみであり、答弁書や弁駁書の送達や、どこで事件を終結するかは、審判長が決定すれば良いとなっています。

 

異議申立の法的性格は、商標登録に瑕疵がある場合に、特許庁自らその是正を図り、商標権の信頼を高めるためのものであり、無効審判は商標登録の是非をめぐる争いを解決するための制度であり、両者は異なる、とあります。

 

コメント

審査主義と無審査主義については、通常の感覚でいうと、絶対的拒絶理由の審査を指すのではなく、相対的拒絶理由の審査を指すと思います。

現在の欧州はフランスのみでなく、イギリス、ドイツも審査するのは、絶対的拒絶理由だけです。

相対的拒絶理由は審査せず、異議申立において当事者が解決し、当事者が解決できないときだけ異議決定をするという制度です。

この意味では、欧州は無審査主義と整理することも可能です。

 

無審査といっても、一番重要な識別性や独占適応性、公益的不登録理由などは審査されるのですが、上記の審査といえば相対的拒絶理由という面からすると、欧州はまとめて無審査主義とした方が良いように思います。

ただし、欧州の異議申立は、絶対的拒絶理由は異議理由にならず、相対的拒絶理由だけが異議申立理由になっています。

このあたり、欧州は異議と無効の役割を分けています。

 

日本の異議では、識別性なしの異議理由が良くありますが、欧州では認められません。

相対的拒絶理由は、審査官の審査では判断しないが、異議申立のなかで必要に応じて審査官が判断するという、この一式で審査をしているとも言えます。

こうなると、欧州では異議の性格は、情報提供ではなく、上記の3.4.のような申立人の利益の擁護、公法上の異議申立権に近いと思いました。

 

小野先生は、付与後異議になっても、異議申立の法的性格は、変わっていないと整理されていますが、条文上や運用上は、そうであっても、登録後という点で、単なる情報提供というのは無理があるように思います。

付与後異議で先行する欧州タイプに変質していると考えた方が良いように思います。

 

さて、この付与後異議ですが、付与前異議に戻すべきという主張が非常に多くあります。

色んな理由がありますが、異議申立は商標制度の華であり、一番重要なものであるのに対して、付与後になって利用率が低下して、取消決定よりも維持決定も多く、これでは、異議制度を置いておく意味がなく、以前の方が幾分ましだったという感覚です。

付与後異議は、欧州のように、相対的拒絶理由は無審査として、類似や抵触は、当事者に任せるときにはじめて有用であり、これは失敗だったなと思います。

平成8年の法改正のとき、知財協会の商標委員会にもヒアリングがあり、法改正担当者も、無理に特許に合わせなくても良いと言っており、委員長は付与前異議の方がよいのではないかと自問自答されていたのですが、私などは早期権利化のために付与後異議が良いなどと発言したのですが、間違いでした。

今から考えと、浅はかだったなと思います。