Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その60)

不使用取消審判

不使用登録商標という形式的、空権的存在をいたずらに許しておくことは、業界の表示使用の自由を圧迫し、かつ、商標選択の範囲を不当に狭めるもので、商標法の理念から見て望ましいものではない。

 

そのため、①継続して3年上日本国内において、②商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、③各指定商品又は指定役務についての、④登録商標の使用をしていない場合で、⑤正当理由がない場合は、不使用により取消すことができるとした(50条1項)。

 

論点としては、

  • 請求人適格・・・「何人も」
  • 標章の同一性・・・審判便覧の例
  • 立証責任の転換
  • 駆け込み使用の防止

などです。

 

そして、ポーラ事件、ディール・カーネギー事件、DEEPSEA事件などの判例が紹介されています。

 

コメント

不使用取消審判は、更新時の使用チェックが無くなった日本の商標法で、唯一、使用を問題にしているものです。

欧州では異議申立時や権利行使に「使用」が必要になりますし、中国でも損害賠償請求時に「使用」が必要と明記されています。米国では使用がないと権利化も更新もできず(本国登録ベースの初回登録を除く)、不使用は権利の放棄となるのが原則です。

 

米国ですが、以前は、使用商品は指定商品の区分(類)で一つぐらいでも更新できたのですが、最近の運用では商品単位で使用チェック(オーディット)が始まっています。抜き打ちと言ってましたが、あまりに多いなと思います。どうやら、不使用商標の排除は本気のようです。

 

メキシコなどでも使用宣誓がはじまりました。一方、カナダでは使用宣誓がなくなりました。いろんな動きがあるというところです。

 

日本は、不使用取消一本とはいえ、現実に損害賠償請求は不使用商標では実損がないのでできないことが多いですし、実施料相当額の請求も損害がないのにできるのかという議論があります(この条文は特許用だと思います)。

差止は、まだできるようですが、不使用商標で、民事的な差止請求までする人がいるのか?という、そもそもの話があります。ブランドものの著名商標でない限り、不使用商標で、警察が動くのか?という話もあります。

 

さて、小野先生の本ではよく分からないのですが、工藤莞司先生の本などにある、商標的使用の要否などが論点だろうと思います。

 

工藤先生は、商標的使用までは問わない、形式的に使用していればよいという立場で、そのような判例が多いとありますが、ここは反対論もあります。技術名称など、商標的使用なのかどうかは疑問なものがあります。  

nishiny.hatenablog.com

 

表示使用の自由に批判的と思われる、髙部判事が高松高裁に異動になったので、変わるような気もします。

 

ただ、権利行使のあたりについて、不使用商標では損害賠償や差止請求ができないと、法律に明記することほ、重要なことのように思います。