Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その62)

使用権者の不正使用取消審判

本書には、条文に従い、53条の説明の前に、52条の2の「分離移転後の一方当事者の混同行為による商標登録の取消審判」がありますが、51条の不正使用取消審判と、53条の使用権者の不正使用取消審判は、セットの方が素直なので、こちらを先に見ます。

 

使用権者の、商標及び商品・役務の同一、類似範囲での使用について、商品の品質や役務の質、又は他人の業務にかかる商品・役務との混同があったときは、何人も当該商標登録を取消すことについて審判が請求できます(53条)。

 

  • 商標法が使用許諾制度を認めた結果、使用権者の誤認混同行為について、商標権者に監督義務を負わせ、使用許諾制度に伴う弊害を防止したもの(逐条解説など)
  • 需要者を保護するためのもの
  • 故意だけでなく、過失にも適用
  • 何人も請求できる公衆審判規定
  • 使用許諾契約は、明示的又は黙示的に締結されたと推認される場合も含む
  • 商標権者の商品・役務よりも劣悪な商品・役務に商標を付する「登録商標の使用権の範囲の不正使用も」も規定される(逐条解説等)
  • 判例としては、「EVEPAIN、イブペイン」など
  • 現実の誤認混同ではなく、現実の混同の発生ではなく、客観的に混同の危険性が存在すれば足りる

コメント

EVEPAIN商標が、EVE、イブと出所混同のおそれがあるとして、取り消され事件がありますが、本当に、この条文の対象なのかなと思いました。本来なら無効審判請求でも良いところを、53条を適用した感じがします。数点、判例が上っていますが、どれも品質誤認ではなく、出所混同の方です。

 

しかし、使用許諾制度の本質から問題を考えるなら、出所混同よりも、品質誤認です。アメリカでは、使用許諾はrelated companyにだけ認めらます。このrelated companyというのは、資本の関係をいうのではなく、品質管理(Quality control)ができていることをいいます。品質管理が不十分な場合は、商標登録が取り消されるので、商標権者も品質管理の基準を設け、積極的に品質管理に関与します。ビジネスの現場や、グローバルな商標ライセンスでは当たりまえのことが、日本の使用許諾では当たり前ではありません。これはおかしいなと思います。

 

一応、条文や逐条解説では、品質誤認も手当していますが、この品質誤認についての判例はないようです。審決例ならあるのかもしれませんが、皆の関心は出所混同だけであり、品質誤認に関心がありません。日本の実務家が、出所混同を商標法の中心に置きすぎているので、おかしな状態になっているなと思います。

もっと品質誤認が生じているとして、商標登録の取消を請求してはどうかと思います。

 

親会社が商標権を有して、子会社に商標ライセンスするケースは、ビジネスでは一般的です。この場合、グループ会社なので、統一的な品質基準があれば良いのですが、もし、子会社に丸投げならどうなるのかなと思います。親会社が商標権者の義務である品質管理を放棄していることになるように思います。

 

親会社と子会社で同じ商品を扱っていないときは、品質基準が一つなので、品質誤認が生じませんが、親子で同じ商品を扱っているときで、品質基準が二つあるときは、親会社がしっかりと品質管理していないと、この条文違反になるように思います。

 

グループ経営、商標使用許諾は、今の企業ではなくてはならないものであり、その品質管理と商標ラインセンスの関係は非常に重要なのですが、アメリカのように、品質管理と商標使用許諾の関係性についての分析・経験・実務運用が少ないだけに、潜在的には問題があると思っています。

別の言い方をするなら、商標使用許諾に品質のファクターを入れるのは、企業の商標管理としては、必須の内容であるということになります。

 

52条の2も、問題がありそうです。