Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その63)

分離移転後の一方権利者の混同行為による商標登録の取消審判

これについては、次のような説明があります。

  • 平成8年法改正により、商標権の分割移転ができるようになった(24条)
  • また、連合商標制度が廃止され、商標権の分割に伴って商標権の分離移転ができるようになった(24条の2)(※ 連合商標の分離移転禁止がなくなりました)
  • 商標権移転の結果、同一の商品も敷くわ役務についての使用をする類似の登録商標権にかかる商標権者が、不正競争の目的で、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用であって他の登録商標にかかる商標権者(専用使用権者又は通常使用権者)の業務にかかる商品又は役務と、混同を生じる行為をしたときは、何人も、その商標登録の取消審判の請求ができるとした(52条の2)
  • 不正競争の目的でとしたのは、混同は不正競争の有無に関係ない客観的な事実であるから、不正競争の目的で混同行為をしたことを取消要件としないと、名声をフリーライドされ利益を害されている側の商標権者まで「混同」を理由に取り消される不当なことになるから
  • 請求権者は、何人も
  • なお、自己の登録商標の類似商標の使用をして出所混同を起こした場合や、使用権者が混同を生する行為をした場合は、51条や53条で不使用取消審判を提起すれば足りる
  • 制裁規定であり、商標登録全部が取り消される


関連で、24条の4に「商標権の移転に係る混同防止表示請求」があります。

 

コメント

この条文、出所混同だけで、品質誤認を見ていないですね。連合使用の分離移転禁止を無くすのが趣旨なので、こうなったのでしょうが、51条、53条に比べて不足していないでしょうか。

 

この規定により、不正競争を起こした方だけが取り消されるのですが、元の商標権者も取消すべきという議論もあったように思います。

混同を発生させた原因は、元の商標権者にもありえます。

  • 相手方を見誤った、
  • 適切な監視をしなかった、
  • 適切な混同防止請求をしなかったなどです。

他人の名声を利用した方だけを取消すという構成が、この52条の2を力不足なものにしている可能性があり、それが同意書制度スタートの足を引っ張っているように思います。

 

連合商標の廃止は、単に連合関係という紐づけをしないだけのものから、類似商標の分離移転を認めるものまでありえます。単に紐づけしないだけなら、移転時に審査をして、類似しているかどうか、すなわち、譲渡可能かどうかを判断すれば良いのですが、類似商標の分離移転を認めるということは、類似商標の並存登録を認めるということになります。これは、商標法が出所混同を容認していることになります。

これは商標権の財産権的色彩を強く反映したもので、商標の収益、処分の観点ではありがたいのですが、元の商標が使用されている場合は、出所混同は必至です。2000年以降の商標権の財産的契機の重視の結果です。

 

混同防止表示だけに頼るのは、そもそもが無理があったように思います。混同防止表示は、当時、インターネットが流行り、各国の登録商標がWeb上では入り乱れ、Disclaimerぐらいしか有益な解決がなったところで、脚光を浴びていましたが、混同防止表示に過度に頼るのは危険です。

 

もし、双方の商標権者にも監視義務を負わせ、出所混同を生じたら、起こした権利だけではなく、起こされた権利も取消されるとすると、商標権の分離移転は、余程注意しないとできないことになります。

現在、類似する商標権の分離移転を認めたことが、アサインバックという日本独特の運用になっています。

この条文の「不正競争の目的で」を削除することで、アサインバックの運用はなくなり、同意書制度に進む出発的に立てます。

アサインバックという筋の悪いものが、普及するとは思いませんでした。

 

  • 同意書は、非類似と考えるから発行するもので、
  • アサインバックは、権利は類似だけれども、(自分はどうせ不使用であるし、空権だけれども権利が残るはありがたいので)行うものであり、

 

結論は、同じように、必要な権利が必要な権利者に行くものですが、どちらが筋が良いかは、明白であると思います。

 

ちなみに、不使用なのになんだかんだと主張する権利者には、不使用取消で厳しく糾問するしかありませんし、もっと、不使用取消は活用すべきです。