Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

パテント誌の髙部知財高裁所長インタビュー

最近の知財訴訟の現状、国際知財シンポジウムなど

2020年10月号のパテント誌に、知財高裁裁判長の髙部眞規子所長のインタビューがあります。

経歴、最近の知財訴訟や知財関係の現状認識、国際知財シンポジウムの開催予定などが書かれています。

面白かったところを少し紹介すると、

  • 知財事件では、新しい論点が次々に出てくる。民法なら我妻栄先生の教科書に将来発生予定の論点が書かれていたりするが、知財では事件で問題になってから学者が研究する状態。自分で考えることが基本に
  • 普通の民事の不法行為では損害賠償が原則で差止は例外。特許や著作権は、権利が強い。だから今、差止請求権の制限が議論されている
  • 日本の裁判への批判は、審理が遅い、賠償額が少ない、クレームの範囲が狭いの3つ
  • クレーム範囲は、キルビー判決で、裁判所が独自に無効の判断ができるようになり、無理に限定してクレーム解釈しなくて良くなった。また、ボールスプライン軸受判決で、均等論が認められるようになった
  • 懲罰的賠償は日本の法体系に合わないが、特許法102条などができた。アメリカにくらべると低いが、ヨーロッパに比べると低くない損害賠償額となっている
  • 迅速性は、審決取消訴訟では8,9ヶ月。知財高裁の控訴審は7ヶ月で、一審と足しても20ヶ月。世界でも早いと驚かれる
  • 権利者有利の和解をいれると、勝訴的なものは46%。そのまえに、警告して和解して訴訟にならなかったものも多い。日本は決して特許権者に厳しくない
  • 審決取消訴訟は、2009年に443件。しかし、2018年で183件。査定系が減っている。企業の出願セレクトが原因か?
  • 審決取消訴訟が少ないと、知財高裁の規模縮小にもつながるので、訴訟を増やして欲しい
  • 裁判官や元裁判官の弁護士の知財調停もスタート
  • 今年の国際知財司法シンポジウムは、令和3年1月21日にウェブ会議で。YouTubeで視聴できる

というような内容です。

 

コメント

本音の部分が正直に見えるインタビューだなと思いました。大変分かりやすく、知財の裁判の現状を紹介しているなと思いました。

知財高裁の規模が縮小しないように、どんどん審決取消訴訟をしたいところです。

 

さて、民事では差止請求は例外というのは、確かにそうだなと思います。注釈によると、産業構造審議会の知的財産分科会特許制度小委員会で差止請求の制限というトピックが議論されているようです。

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/tokkyo_shoi/document/39-shiryou/04.pdf

特許では、差止を武器に損害賠償という図式があるようですが、権利者の一方的主張のようにも思えます。

 

現在は特許での議論ですが、商標法でも議論すべき点です。特に、不使用商標に関して、損害賠償は不使用商標の場合は実害がないので、請求できないという考え方が有力ですが、差止請求が不使用商標でも可能という理解が多いので(実際に不使用商標をベースにお金のかかる差止請求をする人がいないので、事件にもならないのですが)、これが不使用のストック商標をのさばらせる原因になります。

 

不使用なんだから、中国のように、不使用取消でバンバン消せばよいという人もいますが、外内案件の場合は、遠慮せずにバンバン消しますが、同業他社の商標担当者とコンタクトをとることも多い現状では、同業他社に不使用取消をすることはタブーとされていたりします(業界にもよると思います)。

 

ここは、欧州のように差止請求には不使用の抗弁で対抗できるという明確な指針が欲しいのですが、誰もここを言い出しません。不思議だなと思います。この論点がクリアーになるだけで、例の大阪の元弁理士の2万件の出願は意味のないものになります。

 

パテント誌からの抜粋です。

EU Directive 2015(欧州指令=加盟国の国内立法を要求する)では,被告から要求があった場合には過去 5 年以内の使用の立証を原告に課す不使用の抗弁を認めている(同指令 17 条)

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3226

 

おそらく、特許や商標は物権的な権利であり差止請求が基本であるとか、登録主義であり、使用意図があれば不使用商標でも権利取得できる法制度とか、そのような声が大きいのだろうと思います。

通常は権利の上に眠る者は保護に値せずというべきですが、知財の場合は、弁理士も企業も、知的財産法という法律を部分的に切り取って勉強している人が多いので、このあたりが問題なのかなと思ったりします。

 

髙部判事は、分かりやすい言葉で説明していただいたのは良かったなと思います。